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奥の手2
「よし、大祐。勉強しに行こう」
「ん?勉強?」
「決まっているだろう、先輩たちだ」
「待て、意味が通じるように言ってくれ」
陸空は当然のように大祐の腕をむんずと掴み、引っ張っていこうとするが、大祐には何が何だか分からないようだ。そこで、陸空は特大の爆弾を投下した。
「男同士で寝る方法を勉強しに行くんだ」
「はっ!?……え、いや、ちょっと」
戸惑ったり赤くなったりと忙しない大祐をよそに、陸空はずかずかと足を進めていく。陸空より比較的体格がいい大祐が引きずられる構図は、些 か妙だった。
「陸空、待てって。何でそんな勉強を」
「お前は野暮だな。ノンケ同士は色々と下調べが必要なんだ。俺も流石にあっちは経験がない」
「ノンケ同士……」
「俺とお前だ」
「はっ!?」
「だから、俺とお前がもしそんなことをやるとしたら、だな」
そこまで一息にあからさまな説明をかましたところで、大祐が腕を振り払った。驚いて大祐の方を向くと、見事にトマト色に染まった顔で挑むように陸空を凝視してきた。
「何だ」
「何で、だって俺たち付き合ってもいないだろう。お前、俺が告白っぽいこと言った時、考えさせてくれって言った」
「断ってはいない」
「そういう問題じゃ……っ、というか、それ返事として取ってもいいのかよ」
「返事?どれを」
まるで分からないという風に返せば、大祐は呆れたように大きな溜め息をついた。そして、手を差し出してくる。
「大祐?」
問いかけながらも、反射的にその手を取ると、しっかりと包み込まれた。緊張でもしているように汗ばんでいたが、嫌ではない。
「そのことは後で追求するから、とりあえず誰に教わるって?」
その口元に楽しげな笑みを浮かべて見せた理由は分からないが、陸空もニヤリと笑って答えた。
「陸空、俺の言いたいことは分かっているだろうが……」
「皆まで言わなくていい。大祐も共犯だからな」
「……そうだな。いや、それを置いておくとしても」
陸空と大祐は、二人して屋上にいた。そして先客を給水タンクの裏から見守って……いや、窃視というのだろうか。をしていた。
それも、再び例の二人である。
「不知火と坂田がそこまでやる関係だというのも驚きだが、何でここにいるって分かるんだ」
至極当然の問いかけを最小限の声量で尋ねる大祐に対し、陸空はどや顔で言ってのけた。
「それは野生の勘だ」
「激しく突っ込みを入れたいんだが」
「ほら、そう言っている間に」
他人がやっている様子を眺めて興奮する性質ではないが、陸空は完全に研究対象でも眺めているように真剣に見ていた。そうして、油断していたとも言える。
「大祐?」
不意に、背中から体温に抱き込まれた。言うまでもないが、その相手は大祐以外にいない。戸惑って身を捩ると、ますます拘束が強くなる。
「大祐、何を……」
「しっ、黙って。聞こえるから」
言われてはっと顔を上げると、向こう側では何も知らない二人がむつみ合っているのが見える。バレていないことに息をつきながら、大祐の体温を感じて、次第に速くなる鼓動が胸を打つ。
そうしている間に大祐の手が伸びてきて、ベルトからシャツを抜き取られた。
「……っ、え、ちょっ……ん……」
声を上げかけたところを慌てて堪えると、褒めるように唇を撫でられた。触り方が明らかに性的な意味を含んでいて、やらしい。
そして唇を撫でるだけでは終わらず、指先は口の中に侵入してきた。
「ん、ぅ……」
唾液が大祐の指にまとわりついても、構わずに口内を弄んでいく。間違えて噛んでしまわないか気が気ではない。ねばついた指先にねっとりと歯列を擽られ、もどかしいような感覚が込み上げる。
しかしそっちに気を取られていたところ、もう片方の腕はシャツの中に入ってきて素肌を撫でた。びくりと反応すると、その反応さえ楽しむように滑らせてきて、少しずつ上ってくる。
「っあ、……」
爪先が突起を引っ掻いた途端、高い声が出そうになって、弾みで大祐の指が口の中から押し出された。歯を食い縛って堪えようとするうちに、胸元を弄り始めていた指先が止まり、ひたりと掌を当てられる。
「心臓、すごいな」
「!」
一際高く鼓動が跳ね上がる。このままではまずいぞ、と思った。大祐も自分も息が上がってきていることに気が付いたからだ。
「大祐、俺たちは勉強をしに来たのであって、こんなことしようなんて一言も……」
「見るより実践がいい。それに、『もし俺たちがそんなことをするとしたら』、なんて考えている時点で、いつか俺とすることを前提にしているだろ」
「!待っ……そうだとしても、それは今じゃな……っん」
「俺は今がいい」
そう告げて、反応を確かめながら陸空の胸の粒を捏ねたり引っ張ったりし始めた。そんなところに自分の性感帯はないはずだったが、徐々に主張し始めたそれは、赤く色づいてきている。
大祐の指先が触れるだけで痛みと、それとは違った感覚が込み上げてきた。
「うまそうだな」
まるで熟した果物でも評価するように、大祐は舌なめずりしながら言った。妄想で何度も考えたが、現実はもっと生々しく、腰に来るものがある。こんなにエロい大祐の声は知らない。妄想なんかでは追い付けない。
「食っちまいたいけど、その前にこっちを可愛がらないとな」
「っ……!」
ベルトをかちゃつかせて、何を始めるかは考えるまでもない。ずり落ちていくズボンの隙間に潜り込んだ大祐のごつごつとした手が、下着の上からそれをなぞった。
「待っ……、ぁ……」
制止の声をものともせずに、形を確かめるように辿っていき、柔らかく握り込まれた。びくりと陸空が震えると、手の中でそれも反応する。
薄い生地に隔てられた感触がもどかしいと思いかけたところで、不意に後ろから伝わる固いものを感じた。
手を回すと、自分のものより大きいそれに触れる。窮屈そうにしていた。
「大祐、勃起してる」
「わざわざ言うな」
「出してやろうか」
「いや、今はいい。お前のが先」
「じゃあ口で」
勢いで口走ると、大祐は一瞬固まった。また何かやらかしたらしい。
「……すごく魅力的だが、それなら俺が先にやりたい」
「いや、俺が先にやる」
そんな押し問答を続けるうちに、声が大きくなってきていたらしい。二人して、近付いてくる気配に気が付かなかった。
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