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彼の婚約者
姿見鏡を見て、まず、自分に驚いた。
「だから言っただろう。可愛いって」
「凛香さんに言って下さい。そういうのは。僕、男だし・・・。あの、ファスナー下ろすの頼んでいいですか!?」
「あぁ、これ!?」
背後に立つ信孝さんが、背中のファスナーを下ろしてくれた。
「あとは、自分で出来るから、大丈夫です。の、信孝さん!」
そのまま脱がされ慌てた。
「ま、待って」
「何で!?」
「じ、自分で出来るから」
「手伝うよ」
にこっと、笑い、楽しいのね、脱がせるの。そんな感じで、結局最後まで手伝って貰った。
彼が触れた箇所がジンと熱を帯びる。
それが、静かに降り積もる雪の様に、積み重なっていく。
本当は、もっと、もっと、触れて欲しいし、自分からも触りたい。でも、彼には、凛香さんがいる。重なれば重なるだけ、その分苦しみも増す。
着替えが終わり、信孝さんに送って行くよ。と言われたものの断った。これ以上、一緒にいても辛いだけだから。
駅前のバスターミナルの一番線から、巡回バスに乗り込み、手前の座席に腰を下ろすと、さっきまでいたホテルの前を通過した。まだ、打ち合わせが残っているようで、帰りが遅くなるかもと彼。迎えは光希さんに頼んでくれた。
最初、この思いが何なのか分からなかった。
ただ、彼の側に置いて貰えるだけで充分だった。でも、凛香さんとの婚約を彼から聞いた時、涙が出るくらい悔しくて、そんな自分が情けなくて、訳もわからず無性に腹が立って・・・。
そして、ようやく気が付いた。
彼に恋している自分に。
自分より、ずっと年上で、しかも、同性の人を好きになるなんて思いもしなかった。だからこそ、こんなにも胸が締め付けられるのかもしれない。
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