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彼の弟さん

監視役!? ん!? ますます頭の中が混乱してきた。 ー縣家の大事な跡取りですから。それはそうと、助けに行ったほうがいいですか?そのまま枕代わりにされていますか?ー 昆と名乗った男性は、この状況をまるで見ているかの様だった。 「バイトに行きたいので、すみません」 ー分かりました。玄関のドア・・・開いてますので、上がらせてもらいますー 昆さんの声は、龍さんの耳にも届いていて、やべっ、そう口にするなり、寝た振りを決め込んだ。 それから、数分もたたないうち、部屋のドアが開いた。 「目を離すとすぐこれなんだから」 龍さんの肩越しに、険しい表情を浮かべる、スーツ姿の背の高い男性が見えた。 「ナオさんを今すぐに離して下さい。力ずくでも構わないならそうしますが」 龍さんはあくまで寝た振りを押し通そうとした。 でも、相手が昆さんだからか、素直に腕をほどいてくれた。 「一応、病人なんですから、大人しく寝ていて下さいね。部屋から出たらどうなるか、いちいち聞かなくても分かっていると思いますが」 「分かった。分かったから」 龍さんは、彼が苦手の様だ。 やっと自由の身になれたもの、時計を見て、びっくりした。 着替えもしたいし、信孝さんに電話もしたいし。 おろおろする僕を見かねたのか、昆さんが、車で送ってくれることに。 彼は龍さんに再度、釘を差し、家を出た。 車中で彼が話してくれたのは、信孝さんと、柚さんの事。 二人の母は、縣家で家政婦として働いていて、妻のいた当主の遼禅さんのお手がついて、身籠り、龍さんを出産。半年後に病気で亡くなり、遼禅さんは、孤児となった信孝さんと柚さんを養子として引き取り、龍さんと同じように分け隔てなく育てた。 可哀想なくらい、人一倍、周りに気を遣って、常にいい子を演じて。 そんな彼が最愛の人に廻り合い、家庭を持つ。 遼禅さんが一番喜んでいると、昆さんが話してくれた。 凛香さんとなら、きっと、幸せになれるはず。 苦労した分、幸せに・・・。 そんな事を思いながら、気が付けば、涙が滲み出ていた。

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