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彼の弟さん
凛香さんが帰り、光希さんと、龍さんは機嫌よく酒を交わしていた。程よく酔いが回り、龍さんが、同席していた昆さんや、信孝さんに絡み始めた。
「お前さぁ、どういう女だったら満足する訳!?この前は、やっている最中にいきなり現れて、『お帰り下さい』って、ありえねぇよ、普通」
「常々、申し上げていますが、顔はどうでもいいんです。芯のしっかりとした、何事にも動じない、それでいて、周りに気配りが出来る方なら」
「そんな女いる訳ねぇだろ」
昆さんと、信孝さんは、然程、お酒を呑んでいなくて、龍さんの相手も手慣れたもの。
「ナオ、ここに座れ」
酒席に混ざるのはどうも苦手で、食器を片付けて、先にお風呂に入ろうと考えていたら、龍さんと目があってしまった。
「ナオ、無視していいよ」
信孝さんがそう言ってくれたけど、逃げられる雰囲気ではなくて。
「ナオ、もしかして童貞!?」
龍さんの隣に座るなり、いきなりそんな事を聞かれ、完全に固まってしまった。
「龍!」
いつも穏やかな信孝さんが、珍しく声を荒げた。
「だったら、ちょうどいい。信孝に、手取り足取り教えて貰え。こう見えて、信孝は・・・」
「龍、それ以上は・・・」
信孝さんが、首を横に振った。呻くように、止めてくれと。
「ナオさんには、少し、刺激が強かったようですね」
昆さんがにこやかに笑う。
「ナオ、風呂に入っておいで。俺の部屋、使っていいから」
信孝さんの手がふいに伸びてきて、指先がそっと、頬に触れる。
「の、信孝さん!」
驚いて、思わず声が上擦ってしまった。
心臓がドキドキする。
「俺はどこでも寝れるから」
いつもの様に穏やかな笑顔で。
「遠慮しなくていいから」
さっきの信孝さんの姿はすでになく。
昆さんにも、同じ事を言われ、素直に頷いた。
「酔っ払いの相手は、お任せ下さい」
「じゃあ、お願いします」
龍さんから逃げるように、そのままお風呂へと向かった。
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