11 / 32
彼の気持ち
風呂から上がり、足早に信孝さんの部屋へ。
夕方まで龍さんが使っていたベッドのシーツは、交換され、綺麗になっていた。枕元には、トレーナーとスエットがきちんと畳まれ、信孝さんの几帳面な性格を表していた。
何気にそれを持ち上げると、石鹸の匂いに混ざり、かすかに、彼が普段使っているコロンの匂いがして、思わず抱き締めた。
やっぱり、信孝さんの事が好き・・・
でも、彼には凛香さんがいる。
決して、報われない恋だとしても、彼が好き・・・
気が付けば、知らず知らずのうちに涙が溢れ出ていた。
耳元が妙にくすぐったくて、目が覚めた。
信孝さんの服を抱き締めたまま、眠ってしまったらしい。 薄暗い中、背後に人の気配を感じ、眠気眼を擦りつつ顔を後ろに向けると、そこには眠っている信孝さんがいた。
わっ、わっ、わっ!
嘘!?何で、何で‼
一気に眠気が飛んだ。
まさか、こんな恥ずかしい格好を見られるとは思いもしなくて。しかも、距離近過ぎ。
少しだけ体をずらそうとすると、彼の腕が腰に回ってきて、そのまま彼の方へと抱き寄せられた。
「ちょ、ちょっ・・・と、待、待って!」
あまりの突然の事に驚いて声も出ない。
「そんなに嫌!?この前もそうだったよね。龍は良くて、俺はダメなの!?」
「この前って・・・」
ウエディングドレスを着せられた時だ。
「あ、あの時は、恥ずかしかっただけで。龍さんは信孝さんの弟さんだし、それだけで・・・、の、信孝さん、ちょっと待って」
言い終わらないうち、耳元をねっとりと舐められた。
「ナオの花嫁姿、凄く可愛いくて、押さえるの大変だったよ。今だって、俺の服離さないナオが可愛いくて・・・。そんなに煽ってどうする!?」
首筋を彼の唇が這いずりまわる。
「信孝さん!」
龍さんにお酒飲まされて、酔っぱらってる!?
でも、彼は、下戸のはず。
なら、本気・・・!?
戸惑う僕に、彼が、耳元で囁く。
「ナオ、俺の事、好き・・・だよね!?」
幸せそうに微笑む凛香さんの顔が浮かんできて、慌てて首を横に振った。
駄目
駄目・・・
涙で目が霞む。
今、好きだと言ったら、凛香さんを、これから産まれてくる赤ちゃんを裏切る事になる。
二人には、信孝さんが必要なのに・・・
「凛香さんは!?りん・・・」
不意に伸びてきてきた彼の手が、ぐいっと顎を掴み、後ろへと強引に振り向かる。そして、僕の台詞を遮るかのように、彼の唇が静かに重なってきた。
「今は、その名前聞きたくない。龍も、佳大も、昆の名前も。俺だけ見て欲しい。ナオ・・・好きだ」
更に力強く抱き締められた。
ともだちにシェアしよう!