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彼の気持ち

「駄目だよ、凛香さんには、信孝さんが必要なんだから。産まれてくる赤ちゃんも」 「凛香の話しはもういい」 彼がおもむろに体を起こし、枕元のティールランプの明かりを付けた。 「いつまでそれ抱き締めているの!?」 クスっと笑われてしまった。 確かにその通りで。 「ナオは、泣き虫だね」 僕の手に握り締めてあった、服を布団の上に置き、ゆっくりと覆い被さってきた。 いつもとまるで違うその真摯な眼差しは、別人の様で。ドキッとしてしまった。 「昆から聞いたと思う。俺の事。母が亡くなり、龍の父親に、柚と共に引き取らて、知らない大人ばかりの中、柚を守るのに精一杯で、誰にも甘えられず、必死に生きてきた。その反動からか、大人になってから、誰かに甘えたい、一人ではいたくない、その思いが強くなって・・・」 信孝さんの手が、頬に触れる。 「昆には、甘えん坊の寂しがり屋と言われた。甘えられれば誰でもいいという訳でない。ナオになら、本当の俺の姿見せてもいいと思った。ナオなら、男として情けない俺の事、何も言わず受け入れてくれるって」 額に、頬に軽くキスをして、僕の唇を塞いだ。 「うっ・・・ん」 侵入してきた彼の舌が歯列を舐め上げ、僕の舌に絡み付く。 ぎこちないながらも、必死にその愛撫に応じる。 今にも、甘く蕩けてしまいそうな、そんな濃厚な口付け。 ようやく、彼の唇が離れ、一筋の唾液が糸を引ように、口元から溢れ落ちる。 「良かった、感じてくれて」 彼の舌が、ぺろっと、それを舐める。 「ナオの方が辛い思いしてきたんだ。俺がしっかりしないと、そう思って、ずっと我慢してきた。でも、もう、限界。今すぐにでも、ナオが欲しい」 熱を帯びた眼差しに、心が揺さぶられる。 彼の本当の姿を知ってもなお、彼への思いは揺らぎ様もなく、愛しさが増すばかりで。 「好き・・・大好き」 もう後悔はしたくない。 彼に抱き付き、自分からキスをねだった。

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