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素顔の彼
誰かが僕の名前を呼んでいる。
顔は靄がかかり、よく見えない。
「ナオ、おいで」
両手を広げ、優しく僕を呼ぶ。
・・・違う、本当の彼は。
その笑顔、優しさは、ニセモノで、本当の彼は・・・。
「いゃあ・・・あっ・・・!」
強引に組伏せられ、下肢に激痛が走る。
「何で、何で!?」
涙でぐっしょりに濡れたシーツを掴み、その痛みに必死で耐える僕に、彼は冷たく、獰猛な目で見下ろし、そして、嘲笑う。
これからされる事への恐怖。
信じていた人に裏切られた深い絶望感に慟哭し、心が、壊れていくのを感じ、絶叫した。
いやだ!
いやだ!
いやぁ・・・!!
「・・・ナオ、・・・ナオ」
体を揺さぶられ、目を覚ました。
瞼が腫れているのか、重くてなかなか開けられない。
「大丈夫!?うなされていたみたいだけど。」
「信孝・・・さん!?」
「そうだよ」
「本当!?」
「どうした、変だよ」
信孝さんを困らせようとしている訳じゃなくて、夢なのか、現実なのか、頭の中が混乱して訳が分からなくなっていた。
暫し、間が空き、むぎっと彼が僕の体にしがみついてきた。
ぐりぐりと頭を、胸に擦り付け、
「ナオって、すごく、いい匂いする」
子供が甘えるみたいなその仕草に、どきっとしながら、そっか、昨日、信孝さんが言っていた事を思い出した。
こういう時は、えっと。
彼がしてくれた様に、髪に触れ、そっと撫でて、それから、どうしたらいいか悩んでいると、
「俺だってわかってくれた」
嬉しそうな彼の声が聴こえてきた。
現実だと知って安堵した反面、凛香さんに対して後悔の念が一気に押し寄せてきた。
大好きな彼と過ごす一時。
決して恋人同士にはなれないけど、それでもいい。
「・・・好き」
「ん!?何か、言った!?」
「ううん、別に」
涙を堪え、首を振って、彼の大きな背中にそっと腕を回した
。
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