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素顔の彼

「バイト!?」 あれから、二度寝して、昼近くになって慌てて飛び起きた。 隣で添い寝していた信孝さんは、ぶすっとしてあきらかに不機嫌そうで。理由は簡単。 「 一日中、ナオと寝ていれるかと思ったのに・・・寂しい」 手を引っ張られ、目で訴えられるも、こればかりは、仕方ない。 「今晩も一緒に寝るから」 「今日だけ!?」 「明日も明後日も、ずっと、ずっと、一緒に寝るから」 「うん」 ようやく納得して、笑顔をみせてくれた。 でも、これって・・・。 お菓子売り場で、ちょっと高い玩具付きのお菓子を買って!と、親に駄々を捏ね、かごに入れて貰った時に子供が見せるあの笑顔にそっくりで。 昨日までの彼と全然違う、そのキャラに目眩を覚えつつも、こうして、素の表情を見せてくれる事の方が何倍も嬉しかった。 信孝さんと一緒に、というか正確には、彼が僕にひっついて離れてくれなくて。それで、連れ立って部屋から出ると、リビングでパソコンに向かっていた昆さんと目が合い、開口一番。 「寝る子は育つ、というけど、寝過ぎです。ナオさんはまだしも、信孝まで」 かなり呆れていた。 昆さんは、僕たちの姿を見ても然程驚かず。 「しかしまぁ、一年も一緒にいて、よくバレなかったものだと歓心します。ナオさん、今ですよ。突き放すのは」 淡々と落ち着いている昆さんの方が逆に怖かった。 彼は、一体何者なんだろう。そして、何を考えているのか。 眉一つ動かない、その表情から、伺い知ることは出来なかった。 「龍と、光希は!?」 信孝さんが、姿が見えない二人の事を彼に聞くと、表情を一切変える事なく、言葉が返ってきた。 「実は、明日、龍成さんが見合いをするんです。本人が嫌だと駄々を捏ねまして。理由を聞くと、光希が好きだからに決まってるだろ‼と逆ギれされまして、なら、押し倒してでも自分のモノにしたらどうですか⁉とハッパをかけました」 「じゃあ、デート!?」 「まともに誘っても、下心見え見えで、警戒されて、断られるのがおちですからね。、佳大さんが、観たい映画があるみたいで、それを口実に一緒に行きましたよ」 聞いている方が恥ずかしくなるような会話を、ごく普通に交わす二人に正直戸惑った。 龍さんと、光希さんがまさかそういう間柄だったとは。 まさかのまさかで、びっくりし過ぎて、声も出なかった。 「ナオさん、バイトに行かなくて大丈夫ですか!?」 昆さんに言われて、そうだった、と、ようやく思い出した。 「送っていくよ」 信孝さんの手が、そっと僕の手を握ってくれた。 ゛あったかい゛ 握り返すと、にこっと、笑ってくれた。 何度も彼の笑顔を見ているはずなのに、息が苦しくなるくらい心臓がバクバクした。

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