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彼の告白と凛香さんの涙
「一人で食べれるから」
「あちこち管だらけだし、引っ掛かったりしたら大変だから」
「子供じゃない」
「俺からしたら、まだ、ナオは子供。それに病人だし」
朝食が配膳され、甲斐甲斐しく世話をしてくれる信孝さんに戸惑いを覚えつつ、されるがままに、口に、軟飯を運んで貰っていた。そんな僕らを見て、光希さんは必死で笑いを堪えていた。
昆さんは、会計をしに一階の窓口に行っていて、今はここにはいないもの、さっきまで、病室と廊下を何度も行ったり来たりして、僕の様子を見守ってくれていた。
ドアが開き、昆さんが戻ってきた。四人部屋だけど、今入院しているのは僕一人。
「凛香さん」
彼が、名前を呼ぶと、やや間が空いて、本人が姿を現した。普段の明るさはない。僕が、電話口でとんでもない事を口走ったから、怒るのも無理ない。
昆さんが、光希さんを促し、病室の外にでようとしたけど、凛香さんがそれを止めた。
「光希や、昆さんにも話しを聞いて欲しいから」
凛香さんが、右隣に腰を下ろし、信孝さんと向かい合う格好になった。食器は昆さんが下げてくれた。
しばらく、沈黙が流れ、凛香さんが静かに切り出した。
「私ね・・・信孝にずっと片思いしていたの。一緒になれなくても側にいるだけで十分だった。それが、ナオくんが現れて・・・信孝の気持ちが彼にあるのを知って、凄く辛くて・・・。何で私じゃなく、同性のナオくんなのって。酒に酔った振りをして、信孝に迫った。でも、それ一回きり。この子の父親は、信孝でなく、その時、不倫関係にあった妻子がいる男性。信孝が、隠し事嫌いなの分かっているのに、その時に出来た子だと嘘ついた。彼はそういうところ、変に真面目で、直ぐに結婚しようといってくれたけど」
涙声で凛香さんは話し続ける。
「昆さんに、人を騙してまで得た幸せは儚いものですよ、そう言われて目が覚めた。信孝に言わなきゃ、そう思ってもなかなか言えなくていたら、ナオくんから、電話貰って・・・覚悟はしてたのにね。いつか、信孝がナオくんのものになるって・・・」
最後は涙に崩れた。
「凛香さん……」
「ごめんね、ごめんね」
繰り返し謝る彼女の小さな肩を、光希さんがそっと支えた。
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