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雪弌が箪笥の上の写真立てを見る。
雪弌「あれは随分と昔のこと。
平成でも令和でもなく、江戸と呼ばれていた
時代、私は小さな小さな稲荷神社の神の遣い
だった」
真剣な表情の光太郎。
雪弌「ある日突然、天地を揺るがす大地震が
起きて、私は住処を失った。
それだけではなく、御神体である保食命様も
大きな傷を受けた。
そこで私らを助けてくれたのがお前の御先祖
だった」
洸龍は、まだそっぽを向いているが、
雪弌の声に耳を傾けている。
雪弌「保食命様は傷を癒すために故郷である
出雲へ帰ることになった。そして私に、
一つの使命を与えた。この家に仕え、
恩返しをするようにと」
光太郎「その神様のお怪我は治ったの?」
雪弌、首を振る。
雪弌「周辺一帯の厄災を一身に受けた傷は深く
てな……」
光太郎「かわいそう……」
雪弌「以来、私は岸田の血と契約し、この家を
守ってきたというわけだ」
洸龍は雪弌を見ない。
洸龍「オレは繋がってないけどな」
光太郎、二人の険悪な雰囲気に不安に。
光太郎「いつか親戚のおじちゃんが言ってた。
洸兄ちゃんが岸田の人間じゃないって言って
て、ボク、とってもさびしい……」
俯く光太郎に事実を突きつける洸龍。
洸龍「どうせ高志おじさんあたりだろ。
でもな、まったくもって持ってその通りだ。
オレはこの病院で生まれて、
そんで捨てられた」
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