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理由2
いよいよ待ちに待った体育祭当日が訪れた。快晴に恵まれ、風もさほど吹いておらず、来場者の数も多い。宵娯の義母と義父も駆けつけてくれた。出番は少ないと話していたが、それでも出場の度に大きく手を振ってくれる。
そして保護者の間でもすでに話題に上がっているのか、宵娯が出るとやたらとフラッシュが焚かれるのは恐らく気のせいではないだろう。それに対してサービス精神で手を振って見せる
と、歓声が上がった。
「よお、有名人」
出番を終えて団席に戻っていく途中、烏山が声をかけてきた。軽くハイタッチをして、促されるままに自分の席ではなく烏山の隣に腰掛け、談笑をしていると、保護者の中でも頭一つ抜きん出て大きい男が立っていることに気が付く。白衣を羽織り、研究員のような出で立ちは明らかに学校関係者には見えず、異様だった。
しかしその男に気を取られていると、不意にどこからか言い争う声が聞こえてきた。
「てめえ、ふざけんなよ!宵娯に謝れ!」
自分の名前が飛び出して来て、驚きながら烏山と目を見合わせ、そちらに顔を向ける。すると隣の団の団席の後ろに僅かな人だかりが出来ており、間を掻き分けていくと、中心で喧嘩をしている二人の姿が見えた。水無月と侑惺だ。
「水無月、何をやっているんだ」
烏山が正に殴りかかろうとしていた水無月を羽交い絞めにし、宵娯が侑惺を振り返ると、彼は唇を強く噛んで項垂れていた。
「とにかく落ち着け、な」
烏山が水無月を宥めようとするが、水無月はそれを振り払い、侑惺を冷たく見下ろしながら、幾分落ち着きを取り戻した声で言う。
「トラウマだか何だか知らないけど、そんなんで無視される宵娯の身にもなってみなよ」
「水無月、それはどういう」
「理由は本人から聞いた方がいい」
水無月が促したが、侑惺は固く口を閉ざして話そうとしない。それに再び苛立ちを募らせたのか、水無月がまた食って掛かろうとしたところで、話を聞きつけた教師が走ってきた。
「お前ら、こんな時に何をやっているんだ。喧嘩の理由は後でじっくり聞かせてもらうから、取りあえず席に戻れ」
それでひとまずその場は収まったのだが、侑惺が行ってしまったのを見て、水無月が舌打ちしながら宵娯に言った。
「宵娯、彼が君を嫌う理由を教えてあげる。でもただで教えるのは癪だから、体育祭が終ったら屋上に来て」
その後、体育祭に集中出来なかったのは言うまでもない。侑惺の態度は相変わらずで、声援にも見向きもしなかった。
トラウマとは一体何のことか分からないが、宵娯の存在がそれを刺激したことは間違いない。そう思うと、胸の奥で痛みを覚えて、せっかく宵娯の団が優勝したというのに、悲しくて堪らなかった。
そして体育祭が終った後、約束通り屋上に向かったが、生憎練習で使ったりしていたらしく、後片付けなどで屋上には生徒が多くいて、結局水無月は現れなかった。
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