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「……ん」 寝返りを打つと関節が痛み、俺はそこで目を覚めた。聞こえてくる雀の囀りに、カーテンの隙間から入ってきた眩しい日差し。 「………」 ………朝だ。 俺はあのまま泣き疲れて眠っていたのか。しかも床の上で。通りで節々が痛いはずだ。あーあ、どうせなら目なんて覚めなくて良かったのに。ずっと。永遠に。そしたら嫌なことなんて感じずに済むんだ。こんな罪悪感ともさよなら出来るのに。 目が覚めたのと同時にそう思った。 「はは…」 あまりに自虐的過ぎる。 俺は虚しくて一人苦笑を浮かべた。…さてと、死ぬ勇気すらない俺だって腹は空くのだから、朝ご飯でも食べさせてもらおう。きっと共働きの両親に代わって可愛い妹が俺のために朝食を作ってくれているに違いない。 妹に合わす顔なんてないのだけれど、変に心配をされたくない。 それに……、気付かれたくない。 武宮さんとキスしたことを。 ……こんな最低な兄で、ごめんなさい。 そしてリビングに行けば、案の定朝ご飯を作り終えた妹がエプロンを着て食器を洗っていた。 「あ、お兄ちゃん遅いよー」 「……うん、ごめんな、おはよう」 「おはよう、ご飯少し冷めちゃったかも」 今、温めるから少し待ってねーと、曇り一つない可愛らしい笑顔を俺に向けてくれた。 …だけど、俺にはそんな笑顔を向けられる資格なんてない。ただの屑人間なんだ…。 「いいよ、俺なんかのためにわざわざ温めなくても」 「……?」 「あ、いや…、このままで大丈夫だから、」 いけないいけない。妹の前ではちゃんとした兄にならないと。自虐的な台詞を吐いたら心配掛けてしまう。 両親が不仲なため、小さい頃から二人で協力して生きてきたんだ。いつも迷惑を掛けてしまっている妹にはこれ以上迷惑なんて掛けてられない。 「ほら、すっごく美味い。冷めたままでも十分!」 「ありがとう、お兄ちゃん」 ニコっと自分なりに笑顔を浮かべれば、妹も褒められたことを嬉しそうに笑い返してくれた。 「……?」 そして俺はあることに気付いた。 「……食器、」 何で三人分あるんだ? 父さんも母さんもしばらく家に帰ってくる予定なんかないはずだろ? 「ああ、そうかお兄ちゃんあのまま寝ちゃったから知らなかったね」 「……?」 「今日は雷君がね、」 ガチャ 妹が武宮さんの名前を呼んだのと同時に、風呂場へ繋がるドアが開いた。音がしたため反射的にそちらを向く。 「……っ、」 そして俺はそこに立っていた人物を見て顔を引き攣らせた。 「雷君、長風呂ー」 「…悪い」 「もうっ」 な、何で、何で…、 「あ、お兄ちゃん、雷君ね、昨日泊まったんだよー」 まだ武宮さんが此処に…っ。 「あ、…お、おはよう、ございます」 慌てたら駄目だ。取り乱したら駄目だ。 普通通りに、平然としていないと。そうしないと妹に変に勘繰られそうだし、俺が武宮さんのことを好きだということを武宮さん本人に気付かれるかもしれない。俺は必死に平然を装いながら、風呂上りでいつも以上に男の色気を醸し出している武宮さんに朝の挨拶をした。 「おはよう…」 すると武宮さんも挨拶を返してくれた。それだけのことなのにすごく嬉しくて、俺の負の感情が少しだけ吹き飛んだ。 だけどまだ心の曇りは全然晴れはしない。昨日俺が「練習」だと言って武宮さんとキスした罪はどう足掻いても拭うことは出来ないし、なかったことには出来ないのだから。 「あ、あのさ、一つ聞いてもいい?」 「どうしたの、お兄ちゃん?」 そして俺は更に自分で自分の首を絞めようとしている。ある事を二人に聞こうとしているのだ。 こんなことを聞いたら妹はもちろんのこと、武宮さんだって気分を害するに違いない。だって俺は恋人同士の二人からしてみれば部外者なのだから。…だけど、気になる。どうしても気になってしまうのだ。俺は武宮さんのことが好きだから。俺は嫌われてしまうのを覚悟して訊ねてみた。 「た、武宮さんは昨日何処で寝たの?」 「…え?」 「もしかして、二人とも一緒の部屋で寝た?」 本当に最低の屑野郎だ。 「何てデリカシーのない奴なのだろう」と、きっと妹にも武宮さんにもそう思われたに違いない。 二人はまだキスどころか手を繋いですらいないと言っていたが、思いを寄せ合っている男女が一つ屋根の下で何もしていないというのは有り得ないだろう。 やっぱりキス以上のことをしたのかな?不安になっていると、妹から笑われた。

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