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「……!?」
この部屋に居るのは俺と武宮さんの二人。だから信じ難いことだが、今俺の腕を掴んでいるのは武宮さんなのだ。ど、どどどどうしよう。武宮さんから触ってもらえた。やばい。嬉しい。もう死んでもいいっ。
びっくりして口から心臓が飛び出しそうになったが、俺は必死に平然を装って武宮さんに腕を離すようにお願いする。
「え、…あ、の、離してもらえますか?」
触ってもらえて嬉しいけど、これでは部屋に戻ることが出来ない。戸惑っていると椅子に座ったままの武宮さんから上目遣いで見上げられた。俺の心臓は大袈裟なほどに高鳴った。
…しかし次の瞬間、俺の心臓は更に高鳴ることになったのだ。
「た、けみやさん?」
「…俺を」
「……?」
「俺を、一人にするのか?」
キュンッ
「………っ、」
まさしく俺の心臓が破滅した瞬間だった。やばい、もう鼻血出そう。格好いいのに、可愛いなんて…っ。上目遣いで見上げられただけでも殺人的に魅力的なのに、こんな捨てられた子犬のような台詞を吐くなんて。ずるい。格好いい。
やばい。やっぱり俺は武宮さんのこと大好きだ。
好き。好き。どうせなら武宮さんに殺されたいくらい。
「…お、俺、此処に居ていいんですか?」
戸惑いがちに聞いてみれば、武宮さんはコクリと頷いてくれた。…良かった。昨日のキスの件で嫌われたと思っていたのだが、まだかろうじて嫌われてはいないらしい。
俺はその事実が嬉しくてニヤけそうになる頬を意識して引き締めながら、定位置に座る。
「………」
「………」
……だがやはり無言が続く。
武宮さんが無口な人だというのはストーカーのようなことをしていた際に知っていたものの、やっぱりこの沈黙は辛い。
何も言わずにジッと見つめられるのに耐え切れなくて、俺は勇気を出して話し掛けることにした。
「あ、あの!」
思っていた以上に馬鹿みたいに大きな声が出てしまって、とても恥ずかしくなった。
「……」
「あ、の、…その、」
「………」
「きょ、今日も練習、しますか?」
そして焦りに焦った結果、口から出たのはまたこのフレーズになってしまった。
……っ。やばい、涙出そう。死にたい。
こんなこと言うつもりなかったのに、持ちかける会話がなくて同じ失敗を繰り返してしまった。
「お、俺っ。…やっぱり、部屋に戻ります…、」
これ以上嫌われてなるものか。何でいつもこんな失敗をしてしまうんだろう。これでは俺が「練習」とこじつけて武宮さんとキスをしたがっているのがバレバレじゃないか。
…あ、やばい。本当に涙が出てきた。
嫌われたくないのに、気持ち悪い奴と思われたくないのに。
泣いていることに気付かれたくなくて、俺は俯きながら部屋へと足を進めた。
「……!?」
すると再び二の腕を掴まれる。驚いて武宮さんを見てみれば、俺の二の腕を掴んでいる手とは逆の手が俺の顔に近付いてきた。…殴られる!
そう反射的に感じて、俺はギュッと目を瞑る。だがしかし訪れたのは痛みではなく浮遊感。
「…え?」
ポフっと柔らかい物に身体を受け止められる。おもわず素っ頓狂な声が出てしまった。
「た、けみやさん?」
「………」
俺は今ソファの上に押し倒されているのだ。そして武宮さんはというと、そんな俺の上に跨っている。
…何、これ。どうしよう、やっぱり殴られるんだろうか。
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