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「や、だ、」 「……」 「怒らないで、くださ…い」 やっぱり俺の言動に苛々して殴ろうとしているんだ。きっと俺の気持ちに気が付いたから。気持ち悪いから、殴ってしまおうとしているんだ。…嫌だ、武宮さんには嫌われたくない。 もう涙は自分の意思では止められないほど溢れ出していた。 「嫌わ、ないで…っ」 ……一番愛する人に嫌われたくなんかない。 妹には適わないと分かっているから、遠くで見つめるだけは許して欲しい。俺は子供のようにひっくひっくとしゃくり上げながら何度も「怒らないで」、「嫌わないで」と繰り返した。 「武、宮さ、ん」 「怒ってないし、嫌ってもねえ…」 「…ふ、…っ、」 「お前の泣き顔、…興奮する」 そう言われた後、武宮さんのゴツゴツした男らしい指で目元を擦られた。その指先の動きはお世辞にも優しいといえるものではなかった。むしろ少し乱暴で、…慣れてなさそうなその動きに俺は妙に感動して、胸が馬鹿みたいにときめいた。 止められないと思っていた涙は意外にも簡単に止まり、武宮さんが指の腹で拭ってくれたお陰か、滲んでいた視界がクリアになった。そのため武宮さんの顔が間近にあったことに、俺は今気が付く。びっくりして少しだけ咳き込めば、武宮さんは俺の宥めるように優しく目元にキスをしてくれた。 「…な…、っ」 チュッ、チュッ、とわざとらしく音を立てながら、俺の顔中にキスをしてくる。武宮さんの行動にひどく驚いて息をすることさえ忘れていたけど、俺はこれが「練習」だということを思い出した。 「練習、ですか?」 俺は武宮さんにどの言葉を求めているのだろうか。 「練習だ」、「練習ではない」、それとも「お前が好きだから」? 最後の言葉は有り得ない。だって武宮さんは妹のことが好きなのだから。 ……でも妄想するくらいなら許されるよな? 「…俺で、たくさん練習してください」 俺は武宮さんの回答を聞くのが怖くて、武宮さんが答える前に更に言葉を付け足した。すると俺の積極的な言葉が意外だったのか武宮さんは目を見開いて驚いている。 たまには積極的になってみたっていいじゃないか。ギュッと武宮さんの太い首に両腕を回して抱き付いてみれば、武宮さんは微笑んでくれた。 そして武宮さんは俺の唇と触れ合うギリギリまで顔を近づけてくると、…いつもよりも低く掠れた声でこう言ってきた。 「気、失うなよ…?」 「……っ、」 …言わずもがな、キスをする前なのに武宮さんのこの台詞だけで興奮して、俺は気を失いそうになった。 むしろこのまま濃厚なキスで俺の息を止めて殺して欲しいと強請りそうになるくらいに、武宮さんの台詞は魅力的で、そして男の色気が半端なかったのだ。 「……あ」 武宮さんの太くて逞しい首に巻きつかせていた腕をやんわりと外された。それに地味にショックを受ける。やっぱり男で、しかも容姿も普通以下の俺がこんなことをしていて気持ち悪かったのだろうか。そんな自虐的なことばかり考えてしまう。 「……え?」 しかし武宮さんの次の行動に、俺はときめくことになった。なんと武宮さんは俺の両腕を頭上で一纏めにすると、指を絡めるように片手で押さえ込んできたのだ。 「…っ、」 これには興奮せざるを得ない。 だ、だって!た、武宮さんがこんなこと! こんな破廉恥なことするなんて。 だけどそんな興奮とは別に、この状態は少し怖いとも思ってしまう。だってこれではされるがままの状態になってしまうじゃないか。少しだけ抵抗を試みたのだが、力の差は歴然で、俺は両腕で精一杯抵抗してみるのだが、武宮さんは相も変わらず平然とした顔をして俺の腕をソファに押し付けてくる。 チラリと武宮さんの顔を見上てみれば、何処か楽しそうに口角を上げている。 「武宮さ、…ん、っむ」 そしてどんどん武宮さんの端正な顔が近付いてきたと思ったのと同時に、俺はキスされた。昨日と同じように少しかさついた武宮さんの唇が俺の唇と重なっているのだ。 「ん、…っ、」 だけどそんな唇の感触などそれ以上感じることなど出来なくなった。何故ならば、武宮さんのキスが濃厚過ぎるからだ。 「あ、…ゃ、っ、ン」 それはもう文字通り「息が出来ない」状態だった。強引に俺の口内に舌を忍ばせてきたかと思うと、すぐに行動を開始してきた。上顎を舌先で撫で、歯列を舐め、頬の内側を舌で撫で、そして俺の舌を軽く噛んできた後、舌を絡めてきたのだ。 「ふ、っ、ンあ」 あまりに激し過ぎて、濃厚過ぎてキスというものがゲシュタルト崩壊のようになってくる。まるで唾液を交換し合う行為のようだとも思った。俺の口の中には武宮さんの唾液でいっぱいになる。 「あ、っ…ン、ぷ」 俺はそれを零さないように必死に飲み込んだ。自分の唾液は零れたっていい。だけど武宮さんのは零したくない。零したら駄目なんだ。そう思いながら必死に飲み込む。昨日は飲みきれなかったけど、今日こそはと思って舌を絡め取られながら必死に飲み込んでいった。その度にゴクッと大袈裟なほどになる喉の音が恥ずかしい。 「は、っ、…ん、ひあ」 そしてキスはもちろんのこと、武宮さんの手によって拘束された腕も堪らないほどの興奮要素だ。この「屈服されている感じ」が酷く燃える。首に腕を回したかったけれど、これはこれでいいかもしれない。

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