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「あら、大丈夫なのね…」
「…大丈夫、って…何が?」
妹が何を言っているのか、分からない。
「…えっと、どうかしたのか?」
「ううん、何でもないよ」
「そ、そうか?」
「うん。大丈夫なら良かった。じゃあ、私下に居るから」
「……え?もう行くのか?武宮さんと一緒に居なくていいのか?」
「うん、これ以上邪魔すると雷君に怒られちゃいそうだから」
「……怒られる?」
「…おい、」
するとここに来て武宮さんはやっと喋ってくれた。
だけど何故かそれは焦りを含んでいるというか、機嫌の悪そうな低い声だった。
「おっと、口が滑っちゃった」
てへ、と自分の頭を叩くと妹はそのまま俺の部屋から出て行った。…い、一体なんだったんだ?
「えっと、…馬鹿な妹でごめんなさい…」
「……いや」
「……」
本当になんだったんだろう。
我が妹ながら考えていることが分からなかった。
「………」
「………」
「………」
先程妹が意味不明な言葉を吐き、俺の部屋から出て行った。あれから十分ほどが経ったと思う。
何故かそれからというものの…武宮さんの様子がおかしい。何かを考え込むように神妙な面持ちをして眉間に皺を寄せているのだ。
「…あの、どうかしましたか?」
「……いや…何でもない」
「……?」
理由を聞けば、はぐらかされる。
…何か悩み事でもあるのだろうか。俺では力になれないこと?武宮さんが願うならば、何だってしてやりたいのに。武宮さん本人にそう言いたいものの、言う勇気がない。だって余計なお世話だと思われたくないから。
色々と頭を悩ませていると、俺のベッドに腰掛けていた武宮さんが立ち上がった。
「…武宮さん?」
「……」
「あ、帰り…ますか?」
あいかわらず無表情のままの武宮さんにそう尋ねてみれば、「ああ…」と返事が返って来た。…返事が返ってきたことはすごく嬉しいけれど、武宮さんが帰ってしまうのは、…とても寂しい。
ここで武宮さんの恋人ならば「帰らないでください」とか言えるのに。だけど俺にはそんな資格一ミリもない。
それが余計に寂しく思える。だって俺はただの「妹の兄」だから。
「…邪魔したな」
「……いえ、また来て下さい」
「ああ」
「………」
武宮さんがそれだけ言うと、俺の部屋から出て行こうとした。俺はすかさず後を追う。
「あ、見送りますっ」
せめて最後まで武宮さんの姿を見ておきたい。そして脳裏にまでその姿を焼き付けておくんだ。
俺の部屋は二階にあるため階段を下りなくてはいけない。トントンと軽快な音を立てて階段を下りていく武宮さんもまた一段と素敵だなぁと思う。
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