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「…お兄ちゃん?」
「……、」
「起きてる?どうかしたの?」
……妹だ。
今、この世で二番目に顔を合わせ辛い、愛する妹。
きっと俺がずっと部屋に篭っていることを不思議に思ったのだろう。俺が寝ていると思っているならそれを有効活用するまでだ。寝たフリをしてここはやり過ごそう。
「…入ってもいい?」
「だ、駄目!」
「あ、やっぱり起きてたんだ」
「……っ、」
うう、思わず声を出してしまった。
だって、部屋に入られたくなかった…。
「お兄ちゃん具合悪い?」
「…違うよ」
「それならどうかしたの?」
「………」
「私で良かったら相談に乗るよ」
「……、」
「ね?私お兄ちゃんの力になりたいな」
何て優しくて純粋な妹だろう。
そんな妹から武宮さんを無理やり奪うなんて出来るわけがない。それならいっそ身を引いた方が、……いや、やっぱり身を引くことは出来ないかな…。でもずっと想っているだけならいいよな?
「あのさ、」
「…ん?」
「武宮さんのこと、好き?」
「雷君?」
「どれくらい好きなんだ?」
妹が俺以上に武宮さんのことを想っているというのならば、この恋は諦めようかとも思う。
「……どう、なんだ?」
「んー」
「…?」
「雷君のことは好きだよ。」
「す、き」
「でもね、お兄ちゃん?」
「…何?」
「私はね、それ以上にお兄ちゃんのことが大好きなんだ」
「……え?」
「だから応援してるよ。大丈夫、雷君ならお兄ちゃんのこと幸せにできるって私思ってるから。…だから、頑張ってね」
妹のその不可解な台詞を聞いたのと同時に、俺は布団から飛び出た。
「…ちょ、ちょ!」
俺は妹の台詞にびっくりして急いで後を追う。
…だがこの前のように階段から滑り落ちないように気を付けながら。
すでに階段を下りて、リビングのテーブルでお茶を注いでのんびりと寛いでいる、可愛い可愛い我が妹。
「い、一体…」
“どこまで知っているのだろうか?”
先ほどの口振りからすると、俺が武宮さんに恋をしているというのはとっくの前から知っていたのだろう。だがそれ以外にも妹は何かを知っているようだ。俺も知らない何かを。
「………」
色々と詳しいことを聞きたいけど、聞けない。
にっこりと笑っている妹の笑みから本能的にそう感じた。
「あ、のさ、」
「雷君の所に行かないの?」
「……え?」
「今行かないと後悔すると思うよ?」
「……、」
「ね、お兄ちゃん。頑張って」
「…う、うん」
携帯と財布だけを手に取り急いで玄関の方に向かえば、背後から妹の「気を付けていってらっしゃーい」と楽しそうな声が聞こえてきた。
…俺の妹は、きっと世界最強の妹だと思う。それは俺の良き理解者と共に、とても愛しい存在。詳しいことは分からないけれど、こんな俺のことを応援してくれているのだ。
上手くいくかどうか分からない恋を。男同士の恋愛を不毛だと笑わずに。
妹の優しさにおもわず涙ぐんでしまった。だが、涙を流さないように俺は武宮さんの家へと向かった。
…だって折角武宮さんに会えるのに、真っ赤に腫れた目で会いたくないだろ?
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