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ベリアルの過去《4》
「時代が変われば、世も変わるという事だ。その原因の一つに、魔王が代わった事があるが、皆こう思っている。ルシファーが、魔界で最強と呼ばれていた当時の魔王を殺し、魔界の王となった、とな」
「はい、私もその様に聞いています」
私が言うとベルゼブブ様は可笑しそうに喉奥で笑った。
「多くの歴史書や、昔話では、以前の魔王を殺したのはルシファーだという事になっているが、真実は違う」
「え?」
語り継がれるあまりにも有名な話が違うとは一体どういう事かと、ベルゼブブ様のお顔を凝視する。
だけれど、続く言葉に、私は息を飲んだ。
「魔王を殺したのはベリアルだ」
ベルゼブブ様の形の良い唇から紡がれた言葉が、私の頭の中で反芻していた。
暫く、ベルゼブブ様が言った言葉の意味が分からなかった。
魔王を、
殺したのは、
ベリアル様…?
「ええーっ!?」
やっと言葉の意味を理解した頃、気がつけば大きな声で叫んでいた。
驚きのあまり卒倒してしまいそうだった。
どの書物にも、歴史の教科書にも、ルシファー様が天界へ反逆を企て、ミカエル様を筆頭とした高位の天使様達がそれを制圧されたと記されている。
その後魔界へと追いやられたルシファー様は、元の魔界の王を殺し、魔界を征服したというのは誰しもが知る有名な歴史だった。
それが、まさか、ベリアル様が前魔王を手にかけたなんて…。
ベルゼブブ様が以前して下さったお話の中で、ベリアル様の背中の大きな悪魔の羽根が、強い上級悪魔さんのものだという事は知っていた。
だけれど、それがまさか魔王のものだったなんて………。
私は改めてベリアル様の恐ろしさに震え上がった。
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