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第18話
「あっ、かず兄」
この笑いっぱなしの人、やっぱり兄貴だったか。
「一心のオトモダチ…最高だな」
笑うだけ笑ってお兄さんは部屋から出ていった。
「一志(かずし)っていうんだ。まあ…兄貴だよ」
なんだか歯切れの悪い物言いだな。
「かず兄、何に爆笑してたの?」
「…さあてね」
俺は東儀が手にしている浴衣に視線を移す。
「それ着るの?」
「そう。もうここで着替えちゃおうよ」
東儀の提案に頷いてその場で浴衣に袖を通した。
「こんなんでいいの?」
まるで温泉宿に初めて来た子供…。
鏡を見なくともわかる、カカシのような着方。
…まるでセンスが無い。
「帯だけ直すから」
東儀が慣れた手つきで結び直すと夏祭りっぽくなった。
俺は紺色に幾何学模様が白く入ったものを、東儀は白っぽくて細長い線が入ったものを着た。
面と向かうと些か気恥ずかしい。
…東儀を盗み見ると…浴衣姿が色気を醸し出しているようで、実家じゃなかったらヤバかった。
押し倒してしまいたい衝動を振り切っていつものように振る舞うように努める。
時間に余裕があっただけじゃなく、頭を冷やして気を紛らわせるためと、ついでに着替えの荷物を置きに一旦車で東儀の部屋へ戻り、そこから電車で河川敷に向かった。
からからと下駄を鳴らして手を繋ぐ。
人混みに紛れて肩を抱く。
なんだ恋人みたいじゃん。
繋いだ手が、抱いた肩が熱い。
じわりと汗が滲んで鼓動が強くなる。
夏のせいなんかじゃない。
川に近づくにつれて見物客がどんどん増えてきた。
ヒュー……ドン、ドン…。
花火が打ち上げられた。
都会の真っ暗な夜に大輪の花が咲く。
光の花弁は鮮やかに開き人々を魅了する。
だが所詮は刹那の輝きだ。
どんなに美しく咲き誇っても一秒先は、闇、…なのだ。
花火が打ち上がると東儀の顔が僅に光を受け、輝く。
…綺麗だ。
俺は夜に輝く光の花よりも隣にいるコイツの方が美しいと思った。
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