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第23話

『ちょっと会えないかな』 その一言だけだったが嬉しさを見透かされないように“いいよ”と一言だけ返信した。 東儀の部屋に直ぐに行きたかったが待ちきれない自分を認めるのも癪ですぐには家を出るまい、と思っていた。 だが結局待てず、いそいそと東儀の部屋へと押しかけていった。 「何?用?」 嬉しさが顔に出ないようにわざと冷たく話しかけたのだが…ソワソワする俺と対照的に東儀の表情は曇っていた。 「兄が…事故で入院したんだ」 「ああ、あの…」 俺の名前で爆笑した顔が頭を過るが目の前の男は、はあ、とため息を落とした。 「まだ予断を許さない状況なんだ」 「そんなに悪いのか」 組んだ指に頭を乗せて、うん、と力なく答えた。 「俺の家、医者家系で兄貴は跡取り」 「へえ、知らなかった」 「兄貴が親父の後を継ぐから俺は好き勝手させてもらってるけど…」 顔を上げたが、俺を見ない。 「…もしもの時は俺が継がなきゃならない」 「……」 そんなお家事情があったなんて、ちっとも知らなかった。 「まあ、しょうがないんじゃねえの。事情があるんだから」 「医者になるのが嫌なんじゃなくて…その…」 ん?顔色が赤くなって…。 「都丸に会う時間が減るのが…嫌なんだよ…」 恥じらう東儀、レア…。 ああ、それで悩んでいたのか…。 俺は両手で東儀の顔を上向きにさせてちゅっとキスをした。 「何とでもなる」 そう言って涙ぐむ目元を親指で撫でてやると、東儀は長い睫毛を閉じた。 深い口付けをしつつ、俺の頭の中はさっき口走った言葉が脳内で繰り返された。 “何とでも…” もちろん、そうする努力は惜しまないつもりだ…。

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