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第25話

「久しぶりだね」 「…そうでもないだろ」 強がってみせたが東儀は少し痩せたみたいだ。 部屋に上がり込み、テーブルに置かれたお茶に手を伸ばした。 「兄貴の容態が割といいんだ。まあしばらくは入院になるけど」 冷えたお茶を一口飲むとグラスの氷がカラン、と音をたてた。 「事故にあったって言ってたけど…」 ほんの一瞬、隣に座る東儀の動きが凍りついたように止まった。 「…よく分からないみたい…頭を打っていて事故の記憶が曖昧なんだ。一時的なものだって担当医は言うんだけど…」 「ふ~ん」 「生活に支障はないし、本人はそこそこ元気でいるけどね…周りがピリピリしちゃって」 大人が事故に会って周りがピリピリ?何で? 「無事なんだろ?じゃあいいじゃないか」 「…うん、そうなんだけど…」 歯切れの悪い相づち…東儀に何かあった訳じゃないし、俺は気にしないことにした。 それよりも… 「東儀……」 頭を引き寄せキスをした。 唇を合わせるだけの キス。 「本当は…会いたかった」 間近で、瞳を覗き込むように呟けば、俺のシャツを掴み見上げてくる。 「俺だって…」 東儀からのキス。 「…一心…」 キスの合間に名前を呼ぶと、シャツを掴む手に力が入る。 「…せ…、せい…じ…」 首筋まで赤く染まっている。 抱き寄せて髪に鼻を埋めると体温が上がったせいなのかシャンプーと汗の混じった匂いがした。 久しぶりに嗅ぐ東儀の匂いに、頭がくらくらする。 背中に腕を回し、ぎゅっと抱き締めた。 びくっと体を揺らし硬直したが、ぎこちなく抱き返してきた。 目の前の男の匂いを胸いっぱい吸い込んだ。

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