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第29話

「…こんな所で…何してんの?」 「…」 見上げると東儀がいた。 …もう見つかった。 俺はコンクリートの上に座り、丸めていた体を僅かに動かした。 「そんなに拗ねなくてもいいのに」 一心は隣に座り込んで俺の頭をポンポンしてきた。 ·····子供か! 「なんでも…ないし」 そんな事言ってみても、もう拗ねまくってるってバレてる…。 「何だか都丸、随分人間らしくなったね」 「人間…」 酷いな…でも案外そうなのかも。 誰かの特別になりたいなんて思ったこと無かった。 「…人間にしてくれてありがとう」 「え…?」 呟いて東儀の肩に凭れた。 二学期の最大行事、文化祭。 文化祭に何をするか、HRは大いに盛り上がっていた。 俺は興味が無いからほとんどスルー。 だが、出し物が決まると俄然やる気が出てきた。 文化祭まであと一週間という放課後、自分の衣装合わせが済み、カーテンで仕切られた向こう側を覗くと東儀とバチッと目が合った…。 「…と…東儀…それ…」 「何見てんだよ!」 顔を真っ赤にして慌ててカーテンで体を隠す。 カーテンの向こうには女子高生……男子校でそんな訳もなく、セーラー服を見に纏った一心がいた。 「いいんじゃないの?」 「良くない!」 セーラー服の赤いタイが胸元で軽やかに揺れ、カーテンで隠しきれなかったスカートから、ちらっと脚が見える。 線が細くゴツイ筋肉もついていない体にミニスカートに分類されるそれは驚くほどよく似合っていた。 さらに漆黒のロングウィッグ…! 深窓の令嬢のイメージがピッタリ当てはまる。 汗ばむ手でそっと髪を鋤いた。 東儀は俺と目が合ったまま、体を強ばらせていた。 髪を鋤いた手を顔に伸ばそうとして… 「うわ!美少女!」 俺の後ろから桜井が感嘆の声をあげた。

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