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第30話

「裏切り者!」 珍しく一心が吠えた。 「桜井の方が絶対に似合ってたのに!」 「東儀の方が似合ってるよ!なあ都丸?」 「あ?んん、そうだな…」 桜井から振られても、返す余裕がないほど俺は動揺していた。 というか…目が離せなかった…。 桜井が来なければ…伸ばした腕で顔を引き寄せてキスしていたかも…それくらい見惚れていた。 「いつまで見てるの?着替えるから」 赤いタイをしゅるっと引き抜き、こちらを睨む。 「あ、悪い…」 一心の気迫に謝罪を口にするが目は離さない。 あきれたのか一心はカーテンを閉め着替えだした。 着替えより凄い格好を見ているのに…律儀なやつ。 文化祭での出し物は“ロマンスカフェ”。 つまりメイドやら女学生、文学青年、執事がお客様にお茶とケーキを給仕する喫茶店をするのだ。 俺は執事で桜井は学生だが…一心は女学生…。 くじ引きで決まったことになっているが裏で不正が行われていたのをヤツは知るよしもない…。 性格上決められた事には従うスタンスらしく、不満はあっただろうが嫌といいながらも協力的だ。 セーラー服を着て給仕の仕方を放課後練習している。 銀盆にティーカップとケーキを乗せて歩く姿をスマホで撮影し、その写真を見せて 「ほら、背筋が…」 とか言えば案外合法的に一心の女装写真が手に入った。

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