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第55話

気づけば高校三年生になっていた。 今年はいわゆる受験生なのだが俺は成績には何の問題もなく、このまま付属大学に進学する予定でいた。 「都丸」 ホームルームが終わり掃除当番の俺は箒を掴んだ所で声を掛けられた。 「何?」 俺に声を掛けてきたのは柴田だった。 「終わったら少し話がしたい」 珍しいな…俺と話す事なんてあったか?などと思いつつも、 「あ…うん、いいよ」 と答えた。 男子学生の掃除なんてろくなもんじゃない。 ささっと掃いて申し合わせたように一瞬で解散した。 俺は柴田と待ち合わせ場所である校舎の端の理科室に向かった。 引き戸を開けると理科室独特の薬品の匂いがする。 嫌いじゃないが落ち着かない。 「こっち」 奥の準備室から呼ぶ声がした。 そこには白衣を纏って分厚い本を捲る柴田がいた。 「呼び出して悪かったな」 持っていた本を棚に仕舞い、俺と向き合う。 「あの時…見られたって聞いたから…」 あの時…一体どの時だ?俺に心当たりは、無い。 「なんの話?」 柴田が眼鏡を直す素振りをして俺から視線を外す。 「去年…文化祭の時…」 はて…俺は裏方でコーヒーをぶちまけた事を思い出したが…それじゃないだろう。 首をひねっていると柴田が若干顔を赤くして言った。 「…ここで、見たんだろ?」 …ああ!見た見た! 「あれか、バッチリ見たわ」 そう言うと柴田の顔がみるみる真っ赤になっていったのだが…そんなに恥ずかしい事だったのか?

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