「心配しなくても誰にも言ってない」 そう、東儀にだって言ってない。 ま、言う必要も無かったし。 「そうか」 柴田はほっとした顔をして一度棚に戻した本を再び取り出しパラパラと捲った。 なんだ冷静そうに見えて動揺してんじゃん、と思ったら意外と普通の付き合いが柴田とは出来そうだとも思った。 「言いふらすとか…すると思った？」 「いや」 本に目を落としたまま即答かよ。 「…都丸と話してみたかった」 え？それって？ 「友達になりたいって事であってる？」 本を捲る指が止まり、心なしか顔が赤く… 「都丸は東儀と仲がいいから…」 「え？」 「違っ…そうじゃなくて…」 言って焦って訂正する。 「都丸は…男…いや、東儀が好きなんだろ？」 ああ、そういう…。 「柴田はあの…後輩くんが…」 途中で柴田がとても悲しそうな顔をしたから言葉が続かなかった。 「俺のは…ちょっと違うんだ…」 本をパタンと閉じて表紙を爪でなぞる。 「好きになっちゃいけないんだ…」 辛そうな、顔。 「俺も、志摩も」 それ以上話すことも無く、黙って俺は理科室を出た。 他人の色恋沙汰をとやかく言う気はないが、誰かに聞いて欲しくなったのだろうか。 男と恋愛している俺…とかに。