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第61話

窓際のオープンテラスがよく見えるテーブル席に座って一心を待つ。 隣のイスに背負っていたリュックを置き、中からマイボトルを取り出した。 一心は何かとマメで家事全般を進んでこなし、弁当やお茶まで持たせてくれる。 「嫁…だな」 「誰が嫁?」 うっわ…出た。 「聞き間違いですよ、お義兄さん」 湧いて出て来たのは一心の兄 一志(かずし)だった。 「一心待ちだろ?そんな嫌な顔するなよ」 俺のリュックの隣、テーブルを挟んでちょうど正面のイスに腰掛けてニヤニヤと嫌な笑い方をした。 「いい事教えてやるよ」 「いい事?」 …嫌な予感しかしない。 「下遠(しもとお)…」 「誰ですか?」 聞いた事ない名前だな…。 「気をつけた方がいいぜ。じゃな」 思考を巡らせている間に俺の耳元に近づき小声でそう言うと、東儀兄はさっさとどこかへ向かって歩いて行った。 「勝手だねぇ…」 言いたい事を言ってすっと消える。 出会った時から変わらない。 マイボトルの口を捻り麦茶を啜ってようやく一息ついた。 清々しい五月の陽気とはいえ、チャリで疾走すればそれなりに疲れるし喉も乾く。 キュッと蓋を閉めてボトルをリュックに戻すと東儀の姿が見えた。 手を振って合図しようと立ち上がったが…俺はそうせずに再びイスに腰を下ろした。

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