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第63話
「仲良しかな?違うと思うけど」
「そうでもないんだよ」
下遠が眉間に皺を寄せている。
「佐久間は君にしか自分から話しかけないんだ」
「偶然だろ?挨拶だし」
言って下遠が俺を睨んでいるのに気付いた。
何?嫉妬?
「あ〜俺も挨拶された〜い」
レベル低くね?
「会えば挨拶位すんだろ?それでいいじゃん」
「まぁね…」
下遠は、はぁ〜と深々息を吐き出す。
他人の友達事情に付き合ってられるか。
「東儀、帰ろう」
「ちょっと待ってよ都丸」
席を立ち、東儀の腕を軽く引いて下遠から離れようとしたのに…何で止めるかな。
「紹介してあげなよ」
ちょっと、一心!何勝手な事…。
「ありがとう!頼むよ〜」
「え?自分で何とかしなよ」
「恩に着るからさ」
俺の両手を掴み、ぶんぶんと振る。
「…紹介するだけ…だからな…」
…気迫に…負けた…。
大学から俺たちの住むマンションまで自転車で十五分程の距離がある。
途中のスーパーで買い物をして夕方の早い時間に家に着いた。
荷物を冷蔵庫に仕舞い、部屋着に着替え始めた一心の背中にぴったりとくっ着く。
「誠司、着替えられないよ」
「ん…」
肌着一枚の一心の匂いを嗅ぐ。
「甘えん坊だね」
「いいだろ、俺のなんだから」
ふふ…と一心が柔らかく笑って俺の方を向いた。
「はい」
両腕を広げて俺を見つめる。
正面から一心と抱き合って、俺はようやく家に帰って来た事を実感した。
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