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第65話
「好きなのは…まぁ俺には関係ないとして、下遠は佐久間と友達になりたいわけ?」
「現状は見向きもされてないって言ってたし、順番としては…友達になるのが先だよね」
佐久間…手強いんだな…。
「恋愛に関しては協力出来ない。だって佐久間の気持ちの問題でもあるだろ?」
恋愛、特に同性のそれはデリケートだから。
「仲良くっていうんだから、まずは個体認識してもらえればいいんじゃないかな」
…さらっと言ったけど、それって取り敢えず顔と名前を覚えて貰うって事だよな。
まさか…名前すら…可哀想に…。
「はぁ…」
深く息を吐き出して一心の顔をまじまじと見た。
「一心の頼みだから一回は協力する。でも二回目は…無い」
俺は少し長めの一心の前髪を指で弄んだ。
「ありがと」
ふふ、と一心が柔らかく微笑む。
あ〜、可愛い。
損得なく誰かの為に何かをしようとする俺の恋人。
優しすぎて心配になる。
髪を優しく梳き、手のひらで頬をなぞった。
気持ちよさそうに目を閉じている。
「俺、明日は午後からなんだ」
次の瞬間に一心が上目遣いで俺を見遣った。
「奇遇だね。俺も」
誘う目にドキッとしながらも俺は平静を装う。
首に腕を絡ませ上向く顎。
薄く開く一心の唇に自分の唇を合わせた。
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