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第69話
「じゃ、後は二人でいいようにやって。一心、帰ろ」
ああ、終わった。
顔を合わせて紹介したから俺の役目は終わり。
一心の腕を取り、俺は講義室のドアへと歩き始めた。
「ちょっ…と、…待って」
「え?何?」
緊張感の塊のような顔で下遠が俺の肩をがっちりと掴んだ。
「いきなり二人きりとか、ハードル高い…」
…高くしたの、自分じゃん。
「友達になりたかったんだろ?なれたじゃん。告白も出来たし。なぁ一心」
俺は心の中で“ 帰りたい”と念じてみた。
一心なら気づくと信じて。
「ん〜じゃあ四人でどこか行く?」
…手強い。
やっぱり俺の“ 念 ”なんて届く訳ないか。
「そう、それ!行こう!」
下遠が嬉しそうに一心に尻尾を振るのも腹立たしい。
じゃあ、と講義室の扉に向かって歩き出そうとした時、ボソッとつぶやく声。
「俺の都合は聞かないの?」
ここまでずっと黙っていた佐久間がナイスなタイミングで喋った。
「佐久間、都合悪い?」
「突然だからな。用事あるなら無理すんなよ」
援護するように話す俺に一瞥をくれて、佐久間が続けた。
「…用事あるから…七時までなら付き合える」
…なんだ来れるのかよ。
「そっか…それならファミレスでお茶でもしようよ。ね、誠司」
一心の提案で俺も強制的に参加する事になった。
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