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第73話

痛む脚を少し引き摺って俺は佐久間の部屋に来た。 来たと言うよりは連れてこられた、と言う方が多分正しい。 1Kの綺麗に片付いた部屋。 広めの部屋の端に置かれたベッドに座らされ、若干の居心地の悪さを感じた。 「脚、見せてみろよ」 目の前に佐久間がいる。 「え?だ、大丈夫だって…」 言ってるそばから俺のズボンの裾を持ち上げる。 「ほら…あぁ、やっぱり」 膝が出るくらい捲り上げられ、露になる傷跡。 まだ古傷になりきれないピンク色のケロイド。 「事故か?」 「…うん。もう大丈夫なんだけどね」 「こんな脚で走るから…ゴメン」 佐久間は傷跡に視線を向け、謝罪の言葉と吐息を落とした。 「謝んなよ。悪いのは…俺」 「これに懲りて迂闊な事言うなよ」 ズボンを元に戻しながら佐久間は伏し目がちにそう言った。 「そんな事…俺は、本気だ」 「お前…男が好きなの?」 「…多分…違う…」 「だろ?すぐ正気に返るよ。遊びは止めてくれ」 「そんな事ない!」 勢いに任せて立ち上がったがバランスが上手く取れずに体が傾いた。 「ひっ…」 「危なっ…」 咄嗟に佐久間が俺の体を支え…きれずに、二人でベッドに倒れ込んでしまった。 「…じゃあ、試そうよ。俺と出来るのか」 「ええっ!」 「セックスの無い恋愛なんて、俺は考えられないからな」 俺の腹の上に跨る佐久間はさっきと打って変わって積極的だ。 …どうしよう… 押しのけるか、このまま流されるか… 佐久間の顔が近づいてきて、俺は目を閉じた。

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