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第80話
「何か言う事、ないの?」
いつものようにやって来た医療系学部の講義棟、その出入口で俺は下遠を捕まえた。
「あっ!」
急に大声を出しキョロキョロと辺りを見回したかと思えば腕を掴まれて人通りの少ない校舎の影に連れ込まれた。
「昨日は…ありがとう」
「おぉ。うまくいったのかよ?」
「…うん」
下遠は乙女のように恥じらいながら嬉しそうにする。
「良かったな。それだけ聞きたかったから。じゃ、俺は東儀の所に行くから」
俺は一心との待ち合わせに向かおうと下遠に背を向けた。
「待って」
腕を強く引かれバランスを崩す。
「…っとに何すんだよ、危ない」
「ちょっと…聞きたい…事が…」
「東儀待たせてるから歩きながら聞いてやるよ」
「あの…出来れば…二人だけで…」
「はぁ?」
露骨に嫌な顔をしても意に介さない。
コイツ、俺から東儀との時間を奪うな!
「…嫌だね。もう行くから、じゃあな」
今度こそ、足早にその場を離れた。
「お疲れ〜」
「え…」
待ち合わせ場所、講義棟二階広々としたフリースペースで一心が俺を待っていた…佐久間と共に。
「佐久間、アイツが絡んでくる。何とかしとけ」
「どうして俺?アイツって?」
「オマエのダンナだろ?」
佐久間の動きが止まった。
キョトン顔しちゃうの、何で?
「違うの?」
「あ…そういう…?そうなの?…あ!」
何かを思い出したように空中を見つめ…俺たちと目を合わせた。
「下遠とヤッたんだ…忘れかけてた」
あはは、と笑う佐久間に俺と東儀は目が点になった。
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