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1.狂歯車
雨月がドロドロとした怨嗟の中で怒り狂う原因となった出来事の起こりは二つの満月が何回夜空から地を見下ろす前だっただろうか。
その日、雨月が身魂を擲 ってでも仕えると決めた主である無月の子供がいつものように遊びに出た。
子供の名前は星月。まだ遊び盛りで可愛らしい男の子 である。彼が遊びに出掛けるのはいつもの事だったので、何かあればすぐにでも駆けつけられるように常日頃からのお守りである呪 い笛だけを持たせて見送った。
そして、笛も鳴らされずいつも通り星月は帰って来た。些 か帰って来る時間が遅かったが、常と比べても僅かな差異だ。誰も気にしなかった。
それから過ぎ去る日はいつも通りだった。遊びに出掛け、帰って来る星月もいつも通りのはずだった。しかしいつからか、雨月は星月に微細な違和感を覚えるようになっていた。
まだ年端もいかない子供なのに、やけに色気があるのではないだろうか。普段はそんなものは微塵も感じないが、ごくたまに劣情をそそるような雰囲気を醸し出すのだ。触ったらとろりと溶けて、熱くねっとりと絡み付いてきそうな甘く痺れるような錯覚。まるで白昼夢のように日常の中で絡んでくるそれは瞬き一つで霧散する。
しかし、いつからだろうか。星月が雨月を見る度に一瞬だが、常に甘ったるい溶けた表情をしてくるようになっていた。
坊っちゃんがおかしい
日々を過ごす中でそんな確信を得た雨月は、無月に許可を貰って翌日に遊びに行くといつも通り出ていった星月の後をそっと追った。たまに周りを気にしていた星月だが、天性の才と鍛練を積んだ末に、何よりも強くなった雨月の気配は子供では気付く事ができない。
星月は子供が遊ぶような道ではない場所をそそくさと通りすぎ、仕事のために入るような山の中を進んだ。
遊びに行くにしてはやや奇妙な所ばかりを進んだ星月がやがて辿り着いたのはは山の中にぽつんと建った人気の無い小さな小屋だった。そこに辿り着くと、星月はなにやらそわそわとし始める。
そして、この後起こった事は雨月にしてみれば、信じがたく間違いであってほしい内容だった。
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