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11.鬼が哭く

 星月の術は、雨月が星月の姿をその目に映した瞬間から機能する。たとえ髪の毛一本でも星月の姿が雨月の目に映れば術に囚われる。  その事が分かったのは星月の中に望まない欲を吐き出す事を強制されて何度交合(まぐわ)った時だっただろうか。止めてほしいと泣きながら訴えても星月は笑ったまま雨月の下半身に猛々しい杭を立てて己の蕾を開かせる。  ならば雨月が星月の元に通わなければいいと言われるだろうが、それは叶わなかった。一日一度、必ず雨月は星月の元に来るように術をかけられた。己の意思とは関係なく、彼の部屋を訪れてしまうのは(まじな)いに長けている星月だからこそできる事だったのだろう。さらに、交合(まぐわ)(たび)に互いの体液を媒体として術を雨月に刻み込む。それは絶対に千切れる事の無い鎖で繋がれて、引き寄せられるのに似ていた。  ある夜、その日も星月が望む通り雨月の意思は伝わる事無く情事が進んだ。いつもと少し異なっていたのは一連の艶事(つやごと)を終えても星月の蕾が萎えている雨月のものを咥えたままという事だろう。壁に(もた)れて座る雨月の体はいつも通りじっとりと重く縫い止められているので、まだ星月の術は解けていないという事に察しがつく。  そして逞しい体にしなだれかかる星月が、蕩けた顔のまま熱に浮かされたように雨月を見ていた。 「うづき…うづき…」 「…なんでっしゃろか?」 「ふふ、格好いい。きれいでとってもかっこいい…僕の大好きな(ひと)」  うわ言のように言葉を紡ぐ星月の目はどこか虚ろに見えた。どんな事をされても、雨月は星月に呼ばれれば反応する。女が恋慕している男に甘えるようにぴっとりと体を擦り寄せる星月は、雨月の体を愛しげに撫でる。顎から喉、鎖骨の間を通って胸板そして鍛えられた腹、最後に(まじな)いが(えが)かれた下腹部。順を追って下ろされた小さな手を離した時、再び星月が口を開いた。 「雨月、抱き締めて」  お願いというより、命令に近い色を含んだその言葉は雨月が反応する前に形を成す。先ほどまで力無く放り出されていた雨月の左腕が勝手に動き、小柄な体を抱き締める。目を見開く雨月とは逆にとても嬉しそうな星月はころころと鈴を転がしたように笑った。そしてそれに反応するように右腕も持ち上がって星月を抱き込む。 「なに、なんで…?!」 「できたぁ。雨月がたくさん抱いてくれたから、僕の術が雨月に馴染んでくれた」 「は…?!」 「ありがとう雨月。これで僕のお願いを聞いてもらえるね」 「あ…や、やめ…」 「あ、ん…ふふ…大きくなってきた…ねえ、雨月、うづき…このまま、」  己の体に何が起きたのか察した雨月の顔からは血の気が引く。代わりに下腹部に熱が集まり始め、星月の蕾に入ったままだった猛りが再び頭を持ち上げるのを感じた。そして雨月の体は己の意思とは関係なく星月の体を押し倒して荒々しく唇を重ねる。 「ぷはっ…うづき、僕ももう我慢できないよぉ…」 「やめ、やめてください…星月様」  ゆっくりと紡がれる言葉と己の行動に雨月は信じられないと言わんばかりに首を横に振る。これ以上言葉を続けてほしくない。掠れた声で懇願するが、当然聞き入れてもらえるはずはない。今の状態を望んだのは星月なのだ。 「このまま…うづきの子を孕めるくらい、僕がうづきの形しかわからなくなるくらい…」  雨月が涙を流しながらそれ以上聞きたくないと首を横に振るが、星月はゆっくりとその首に手を回す。そして雨月の涙を小さな舌で可愛らしく舐めとると、耳元でそっと残酷な一言を紡いだ。 「たぁくさん、犯して?」  目眩がする程に甘えた響きの音は呪いのように雨月を(むしば)む。拒否の声を上げる事すらできず、抗う事さえ許されなかった雨月の音にならない叫びは誰にも届かない。  その日座敷牢の中で星月の甘く淫靡でしとどに濡れた鳴き声と、雨月の音にならない謝罪と嘆きが一晩中空が明らむまで響いていた。

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