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14.昔話と決意

 打ち合いを続けながらだが、無月は話し出す。それは昔の話だった。  芍璃(しゃくり)は生まれながらにして不死だった。それが分かったのは彼が産まれた日だ。芍璃は不運にも、産まれたその日に首をはねられたという。罪人は他の鬼達が捕らえ、芍璃は同じ時に亡くなった母と共に早桶に入れられて埋葬された。 「しかしな、幾晩か経つと泣き声が聞こえるようになったのだ」  幾日も幾日も聞こえてくる赤子の声に皆が首を傾げた。幽霊ならば、鬼である彼らにも見えるはずなのに何も見えない。ならば、と好奇心旺盛な者達が泣き声のする場所を調べた。すると、彼らは夜になって五本の角を持つ赤子を抱えて戻ってきたのだ。それは間違いなく産まれたその日に首をはねられた赤子だった。そしてその子供は成長していく中で、絶対に死ななかった。というより、死んでも生き返っているかのように蘇生した。  首をはねられても生きていた事、子供ならば死んでいてもおかしくない事故の後でもけろりとしていた事、何よりまた生き返るのだ。それは不死鬼としての条件に合致していた。  それが判明し、不死鬼として大切に育てられた芍璃は本来なら里の重鎮になっていたかもしれない。だから不死鬼という事が判明した後は、幼い頃から様々な事を教えられた。しかし、それが仇になってしまう。 「…人の欲とは恐ろしい」  芍璃が里の近くの野で遊んでいた時、人間に出会ったのだという。最初は互いに驚いたらしいが、言葉を交わせば打ち解けられた。そして「他人のためになる」と唆されて連れ出された先で芍璃の花は散らされた。それも、人が散々乱した後に小飼の妖の子を産む腹となった。それは言葉にするのも(はばか)られるほど淫らで惨憺(さんたん)たる出来事だったという。  不死であるが故に、妖の子を産んでも死する事もできなかった芍璃は歪んで育ってしまった。そして、里に帰って来た芍璃は狂った情婦のように男を求め始めた。起きた事が事だけに里の者達はどうすることもでず、誰も彼を止められなかった。 「それが、このような事になるとは…お前達をこんな事態に巻き込み、お前に血反吐を吐かせるような事になるとは…すまなかった」 「いえ…過ぎた事は仕方あらしまへん。何より今はこの身体に走る呪いとやらを解くのが先でっしゃろ」 「そうだな…」 「坊っちゃんはやはり呪術にとても長けていらはる。そして、あては恥ずかしながらそれに対抗する術を持っとりまへんのや…」 「なるほど。なれば、方法は一つか」 「はい。ほんの少しばかりお暇を頂きたい」  そこまで話した雨月の木刀が強めに切り上げて無月の木刀を弾き飛ばす。参ったも何もない、いつも通りの終いの合図だ。 「行くあてはあるのか?」 「あらしまへん」 「ならば、夜の城を築く者をあてにするといい。お前が発つ前にあちらに伝えよう」 「感謝します」 「…まぁ、俺としては里長(さとおさ)は世襲ではないので、お前があれと添い遂げるついでに継いでくれてもいいのだがな?」 「…お館様、堪忍してください」  打ち合い後、無月の軽口に苦笑を乗せて返せる程度に雨月の心は軽くなっていた。  そして、その日の内に無月に教えられた場所を目指して雨月は里を発つ。  夜になっても己の元に現れない雨月に星月は悲しげな声で彼を呼ぶ。だが、雨月が現れないと確信すると彼とねやと名乗った者を思い出して、独り淫靡な夢に(ふけ)るのだ。

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