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 その日もねやとの淫らな秘め事を終えていつも通り帰宅した星月は、なんとなく屋敷の裏にある泉へ向かった。少しだけ小高い丘から涌き出る清水は小さな滝として泉に注がれている。水は透き通り、澄んだ水底の苔の花や輝く小石を更に美しく見せていた。  この場所は星月の物心がついた時からの遊び場でもある。慣れ親しんだ場所でもあり、澄んだ水は常に冷たい。それは火照った体を冷やすのに丁度良かった。泉で遊ぶこの時ばかりは淫らな色は影を潜め、見た目通りの姿に戻る。楽しげな様子ですぐにでも水に入ろうと、着物を捲り上げながら向かったそこには先客がいた。  ぱしゃりと滝から落ちてきた水が跳ねる。  星月が見たのは泉に入る美しい美しい鬼だった。白磁の肌に所々銀線を引いた濡れ羽色の長髪、赤の角はしっとりとした深い色をしている。鍛え上げられ、理想的とも言える程に均衡の取れた体はいっそ艶かしい。  そして澄んだ水に浸かる男の象徴とも言える部分は、星月が今まで見た中で最も魅力的だった。思わず音を立てて生唾を飲み込んでしまう程に星月は一瞬でその鬼に魅了される。そして星月はその鬼を求めてしまった。 「ん…?ああ、坊っちゃん。お帰りにならはったんですかいな?」 「え…あ…うん」  星月の気配に気づいたらしい男は整った顔で小さく笑う。その笑顔は限られた者しか見る事ができない貴重なものだったが、星月は産まれた時からその限られたものの中に含まれている。 「さいですか。に、しても見苦しい姿を晒してまして申し訳ありまへんな。すぐに支度しますに」 「雨月は、どうしたの?」 「いやなに、少しばかり稽古したら砂ぼこりで汚れてしまいましたに…それを流しながら涼んどっただけですわ」 「そ、っか…邪魔してごめん」 「いやいや、構いまへん。あてはすぐ支度しはんで坊っちゃんも夕餉までゆっくりしてくんさいな」 「う…うん」  星月は目の前の鬼をよく知っている。産まれた時から互いに知っている。  しかし、今までこんなに求めた事は無かった。状況が状況だったためか、雨月はすぐに支度をして一礼をしてからその場を離れていく。そんな雨月の後ろ姿を見ながら星月は脱力したように膝を抱えて丸まった。常と違うのは体の一部が熱を持って膨らんでいる事と心の臓がいつもより早い事だろう。 「雨月が…欲しい…」  小さな呟きは誰の耳に届くことも無く滝の音で打ち消された。  その日から 雨月を追う星月の視線は時折熱を帯びていく。それに合わせるかのように、ねやとの秘め事もより激しさを増していった。  いつか雨月を受け入れるために。雨月を己の体の虜にするために。その一心で星月は乱れ続ける。  ねやから体の全てを使って男を蕩心(とうしん)させる方法も教えてもらった。ねやが過去に伝授されたという相手の体を淫らに動かして、体を重ねる毎に本人の意思とは関係なく体を支配する(すべ)も習った。  そんな時、ねやとの秘め事が雨月に暴かれたのである。  そして星月は強引に雨月と体を重ねた。星月の命じるまま雨月の意思とは関係なく、泣きながら打ち付けられた腰は忘れられない。それは星月が思っていた以上の快楽を生んだ。だから星月は、今後もいっそ孕むほど雨月に抱かれたいと願って目を閉じる。  しかし、願いは届かない。星月が望むままに体を重ねた雨月はその日から姿を見せなくなっていた。

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