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20.解呪を望み

 逃げ出したいという本音を押さえ込んだ丞庵は少し考えながら口を開く。下手な事を言えば雨月がどんな反応をするか分からない。 「あー…つまり、色々やらかした人のせいで君は無月の息子にその呪いをかけられちゃった、と…」 「ええ」 「そして、それを解く方法を探してここに来た、で間違いない?」 「それ以外であてがお館様のお近くを離れるなんてあるはずありまへん」 「うーん…真面目…」  雨月の返答に思わずといったように苦笑いを浮かべた丞庵は力を抜いて煙管を取り出す。その行動に八角の責めるような気配がひしひしと肌を刺すが、慣れたもので気にせずに火を入れた。 「実はねー…その呪いが残ってないのってもう一つ理由があるんだー」 「もう一つ?」 「うん。それって解き方もすっごく面倒なんだ…」 「面倒、とは?」 「効力を失うまで術師と交わう事はしない。もしくは、解呪を知っている者に解いてもらう…それしか解呪方はないんだ」 「では解呪を知っていらはる方に解いてもらえばええんですね」 「そうなんだけどー、そうなんだけどさぁ…」 「?」  言葉を選んでいるのか、ごねたように口を開閉させている丞庵だったが、その様子にそれまで静かだった八角がしびれを切らした。 「まどろっこしい…解呪ができるのはその呪いに関わった者だけだと言えば良いでしょう」 「つまり?」 「あ!八角!まっ…むぐ!!」 「え、あの…」 「お館の事は気になさらず。話を戻すと、その呪いは個人によって微々たる差異があります。なので確実に解呪できるのは関わった者だけなんですよ。下手に他者が手をかければ運が悪いと一生消えなくなります。」  八角の言葉を物理的に遮ろうとした丞庵だったが、軽く避けられた上にあっという間に畳の上に転がされる。そして言葉を続けられないように八角の影が動いて丞庵の口を塞いでしまったので彼はもう喋れない。 「……なら、あてがここに来たのは無駄足だったと」 「かもしれませんね。しかし、その坊っちゃんとやらとの距離を取れたのは良い事なのではありませんか?」 「まぁ、そうかもしれまへんな」  大きな溜め息を吐いた雨月はいつの間にか服を整えていた。 「とは言ってもこのままではお館様の元に戻ることはできやしまへん…どなたか、呪いにかかっていても対抗する(すべ)を知っていらはる方はおりまへんか?」 「呪術師は数多いけれども、絶対の呪いは抵抗すら無意味…なれば、その坊っちゃんに呪いを教えた者に聞いた方が早いのではないですか?」 「……できれば会いとうないけれど、しかたあらしまへん。首をもいででも聞きましょうかえ」 「おや、静かだと思っておりましたが中々物騒な方だ」 「お館様と坊っちゃん以外は塵芥(ちりあくた)と同じ…必要無ければ掃き捨ててしまうのが一番ですわ……ところで、八角はん…あんたさんの主は死んでたりしまへんか?さっきから動きが止まっていはる」  雨月がチラリと転がされている丞庵を見ると、彼はぐったりとしたまま動いていない。それを今思い出したように八角はポンと膝を打った。 「ああ、忘れていました。動かないのは酸欠でしょう。ほらお館、お客人を助けるのが今回の目的でしょう?起きなさい」 「ゲホン!」  八角の影が顔から剥がれると、新鮮な空気を一気に取り入れた丞庵の体が大きくしなる。息を乱して涙目になる彼は見る者が見れば下半身に熱が集まったかもしれないが、生憎この場にいる二人は何も感じない。むしろかわいそうな物を見ている目が二対あるだけだ。  そんな扱いにも慣れているのか、息を整えた丞庵は涙目のまま雨月に問う。 「あー…ひどい目にしかあわない…でさ、その呪いを教えた者の名ってもしかして…いや、もしかしなくても芍璃(しゃくり)じゃない?」 「…ッなぜその名を?!」 「なぜって…ここでも有名だからね。悪鬼として、だけど」  そう言って肩を竦めた丞庵は過去にあった事を話し始めた。

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