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21.仕置きと拷問
この夜の城の領域に、ある日ふらりと現れた鬼がいた。蜂蜜色のすらりとした体躯に顔を半分隠すのは、光の加減で桃色にも見える暗緑色という不思議な髪。鬼特有の整った顔には笑みを浮かべ、黒い眼窩の中にはとろりと蕩けそうな蜜の色があった。
鬼は男だったが、甘い表情と仕草から中性的な雰囲気を感じさせる。そして頭に戴く歪な五本の角は完璧な外見の中に違和感を生み出して、よりいっそう不思議な魅力を醸していた。
やがてその鬼はあっという間にこの場所にいる者達を魅了し、物陰に引き込んでは足を開く。性別など彼には関係なかった。ただただ相手の劣情を煽っては己の肢体を使って全てを虜にする。鬼の並外れた体力と回復力、頑丈さも相まって休む事もなく乱れ続けた。当然彼のその行為によって、この領域の暗黙の了解や風紀はあっという間に乱れた。
「だから追放したんだよね」
丞庵自ら出向き、暗がりで複数人の男の相手をしていた芍璃を捕らえて追い出したという。
「追放だけだなんて随分とお優しいですなぁ」
「もちろん追放する前にお仕置きしたよ?悪い子には当然の処置だ」
聞けば、丞庵の言うお仕置きは拷問に等しかった。
呪い入りの焼き印を腹に押した上で、城で飼い慣らしている猛獣を生むための胎にしたらしい。
そもそも、猛獣とは名ばかりでそう呼ばれるのは全て怨念や悔恨から生まれた化け物だ。本来ならば、ものがものだけに猛獣の子を腹に宿した時点で生き残れる見込みは少ない。丞庵のお仕置きはいっそ極刑でもあった。
「でも不死って言うだけあって本当に死なないんだね。ちょうど良かったから腹の焼き印が消えるまでうっかりたくさん産ませちゃったよ」
怖気 が走るような話ですら、天気を語るようにカラカラと笑いながら丞庵は話す。そんな彼だからこそ、この地を統べているのかもしれない。
「……産ませた、その後は?」
「外にポイ。ああ、あれの胎から生まれた猛獣ならもしかしたら今いる場所を辿れるかもしれない。使う?」
「あてでも使えるならお借りしたいですわ」
「分かった。八角、適当に見繕っ…ッブ!!」
「それなら比較的大人しい上に、持ち運ぶのも便利で居所を見つけるのにはうってつけでしょう。どうぞ、お使いください」
八角は常に先手を打つようだ。いつの間にか持ってきたモノを丞庵の顔に投げつけた上でそれを使えと雨月に向かって頭を下げたのだった。
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