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22.道標の代わりに
投げつけられたせいで丞庵の顔に貼り付いた赤黒い泥のようなものはゆっくりと蠢いている。たまに現れる目のようなものは少しだけ迷惑そうにも見えた。しかし、本当に大人しいらしく、ただ蠢きながら丞庵の顔にへばりついているだけである。最も、へばりつかれた本人はそれをどうにかしようと一人でバタバタと暴れていた。
「雨月様、この籠に入れて持っていってください。いくらアナタが鬼とはいえアレを持ったままでいるのは少々おすすめできません」
「……では、ありがたく使わせてもらいますわ」
顔面に張り付いたもののせいで暴れている丞庵を無視している八角から雨月に渡されたのは、小洒落た小さな虫籠のようなものだった。それはぶら提灯のように手提げ棒の先に八角形の細工箱が着いている。さらに八面の壁には硝子細工が嵌まっており、作った者の技術の高さを物語っていた。
丞庵の事を気にもせず話を進める八角に少し戸惑いそうになりながらも、雨月は差し出された籠を受け取る。すると八角から追加で説明がなされた。
「そこにアレを入れて『下りた胎 を探せ』と命じてください。そうすれば道を示す面の硝子がうっすら光ります。そして帰りも同じ、『同胞 の元に帰れ』と言えば結構です。ここに辿り着くでしょう」
「わかりましたわ。しかし、意匠を凝らしてあるこの籠…あてが持って逃げるとは考えんのですか?」
「持って帰っても構いません…アレは本来、恨みやら欲やらを食って増えます。ただ、増える時にその思いを持ってる奴の胎 を床にするのです。しかも、アレを入れられるその籠の呪 いもややこしくて永続的なものではありません。まあ、床になりたいのなら止めはしませんがね」
肩をすくめながらそう言った八角の言葉を雨月は汲み取って少しだけ目を見開いた。それはつまり、使い方を知らなければこの化け物は感情ある者の体を床にする。そんな危険なものを持ったままにするというのはいつ爆発するか分からない時限爆弾を抱えているのと同じだ。
「…芍璃を探してる途中で呪 いが切れる可能性は?」
「アナタは探すのに幾年かけるおつもりですか?それに胎を探させるだけならあまり時間はかかりませんでしょう。むしろ喜んで探すでしょうから……それだけあれの胎は良かったらしい」
丞庵の言う『お仕置き』を知る八角は当時の事を思い出したのか大きなため息を吐きながら肩を竦めた。
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