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23.灯籠が示す方へ

「そうそう!生まれても生まれても、(こぞ)って生まれた胎に戻ろうとしてたよね。そのお陰でいっぱい増えてくれたけど」  そこに息を切らした丞庵が楽しげに話に混ざってきた。顔面のモノを引き剥がす事に成功したらしい。赤い模様が薄ぼんやりと脈動するように見える手で、先程まで己の顔面に貼り付いていた泥のような化け物を摘まんでいた。  そのまま、芍璃にした『お仕置き』について話し出す。  捕らえた芍璃を『お仕置き』のための部屋に転がした丞庵は、まず定石通りに彼の四肢を封じた。それもただ動きを封じたのではなく、足を開いて何も隠せないような体勢で固定した。  屈辱的ともいえる体勢だったが、芍璃は息を荒げながら己の股間に熱を集めたという。さらに、その奥にある縦に割れた蕾からはすでにトロリとした透明な蜜を流していたというのだから驚きである。なにより蜜を滴らせるそれだけ見れば、丞庵ですら彼を女と錯覚したかもしれないという。 「さて、君にはお母さんになってもらうよ?」 「へえ?何を産むの?」  そんな軽い口調で始まった『お仕置き』もとい拷問でも、芍璃は(なまめ)かしくずっと鳴いていたらしい。『母』となった者が腹の中を食い破られたり、体力を全て喰われてしまう事もあるその行為はこの街の極刑とも言える。  しかし芍璃は何をされても、何回ソレを生んでもただただ甘く喘ぎ、萎える事無く立ち上がったままの杭からはまるで小水のように潮を噴いていたらしい。  雨月にとって、胸糞が悪い話を嬉々として話していた丞庵だが、八角が軽く咳払いをした事で漸く口をつぐんだ。 「さてお館、いつまでソレを摘まんでいるんですか?あなたがソレに触ったら弱ります。むしろ現在進行形で弱ってます」 「八角が投げつけてきたのに!!」 「あなたを止めるのにはちょうどいいでしょう。つべこべ言わないで早く籠に入れなさい」 「ひどい!!」  害虫を相手にする人間のような態度で主人に接する八角だが、丞庵はそれを楽しんでいるような節がある。その二人の態度が何だかんだで主従の釣り合いが取れているのかもしれない。  化け物を入れてから籠の蓋を閉じれば、カタリと一度だけ揺れて静かになった。その籠の柄を雨月に向けた丞庵はシャンと背筋を伸ばす。 「さて雨月殿、後は望むだけだよ。幸運が君を導かん事を……」 「……はい。お力添え感謝いたしますえ」  一つ頭を下げた雨月が籠から伸びる柄を掴んで持ち上げると、籠自体が意思を持つように細かく揺れる。その様子はまるで己が産まれた胎に行くのを急いているようにも見えた。 「では、コレはお借りしますわ」 「ああ。さっきの話を聞いてて分かるかと思うけどうっかりしても籠から出さないようにだけ気をつけてね」 「ええ、もちろん。それでは、またいつかコレを返す時までさいなら、ですなぁ」  感謝のために再度丞庵に頭を下げた雨月は八角に案内されてこの街の出口に辿り着く。本来ならば入る者しか許さない出口は静寂が支配していた。  くらい暗い静かな空間は声をよく響かせる。そんな場所で雨月は籠の中身に命じた。 「お前が出てきた胎まで案内しんさい」  命令とも取れる声に一度だけカタリと揺れたソレは、すぐに場所を示すために籠の一部を明るく灯す。その指し示された方向に、雨月の足は迷い無く進み始めた。

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