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26.遠い目
カラリと籠が小さく鳴く。夜の城は変わらず享楽を内包したまま存在していた。
丞庵のいる部屋に通された雨月は沈んだ顔のまま、案内された場所に座す。
「その様子だと、解決策は見つからなかったみたいだね?」
「……ええ、残念ですわ」
「無月くんにも頼まれてたし、こっちでも色々調べてみたんだけどねぇ……より強い呪いで上書きする、とか該当部位を切りとる、とか変なのしか出てこなかったよ……」
「そんな事までわざわざお力添えしてもろて感謝しますわ……」
「いいの!いいの!無月くんと吾の仲だしね!……それより、君は何で吾の方を見てるのに目を逸らしてるの?ねえ?!」
雨月の逸らされている目はこの部屋ではないどこか遠くを見ている。
それも致し方ない。丞庵は高い天井から逆さに吊し上げられていた。
「……何をしはったん?」
「いやぁ……上客が来る予定の部屋で寝過ごしたみたいで、起きたらここで吊られてた」
「……あんたはんも懲りまへんな」
「ははは、そうだね!……下ろしてください」
「あてには無理ですわ」
「そう言わずに……!お願いします!」
外聞も気にせず騒ぐ丞庵に、この地を治めている者がそれでいいのかと問いたくなる。しかし現状が常の事らしい。その証拠に、雨月に新しい茶を持って来た禿 も彼の置かれている状況に驚く様子は無い。むしろ、またかと言わんばかりの呆れた表情をしていた。
「ごしゅじんさま、またですか?」
「そうなんだよ。下ろして?」
「むりです。てがとどきません」
「君は届くよね?手じゃないけど色々出せるよね?知ってるよ?吾を下ろすくらいできるよね?」
「やです。ごしゅじんさまはいまのままがおとなしいです。はっかくさまさすがなのです」
「ひどい!!!」
やって来た禿にも助けを求めるあたり、丞庵も必死なのかもしれない。しかし断られると、駄々をこねるようにぶらんぶらんと勢いをつけて揺れている彼を見ていると雨月の目は更に遠くを見つめてしまう。
何より、揺れて暴れる事も折り込み済みで吊られていたのか、縄がきつくなって痛いと騒ぐ彼は本当にこの地の主なのだろうか。
この場で起こる先ほどからの展開に、どう反応したらいいのか分からない雨月は新しく出された茶をひっそりと楽しむ。やがて呆れた顔で禿が退室し、大人しくなった丞庵を見ると驚く程真剣な目が雨月を貫いた。
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