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第5話

「あ…あ…ご…ごめんなさい」 アオキが今にも泣き出しそうな顔になると、サイドテーブルからテイッシュを引き抜き慌てて拭おうとしてくる。 紅鳶はそれを軽く避けるとくつくつと笑った。 「いい」 「でも…」 「お前が舐めてきれいにしてくれるんだろう?」 挑発的な眼差しを向ければ、青ざめていた顔は一瞬で真っ赤になる。 アオキは恥じ入りながらも、身体を屈めると恐る恐る自分の吐精したものを舌で掬いはじめた。 滑った温かな舌が皮膚に当たるたびに、背筋がぞくぞくと震える。 今日はずっと御預けを食っているせいか、身体が妙に敏感だ。 たまらなくなった紅鳶は唇の端の方を舐めていたアオキの唇を強引に奪った。 驚いたアオキは一瞬目を見開いたものの、直ぐにとろりとした表情になり口づけに応えると鼻にかかった甘い声を漏らし始める。 角度を変え深く濃厚になる口づけに、アオキの強張っていた身体から次第に力が抜けていくのが見て取れた。 熱い吐息を漏らす下唇を柔らかく甘噛みしながら、紅鳶はニヤリと笑う。 そして、ここぞとばかりに畳み掛けた。 「そろそろいいだろう?いい加減これを外してくれないか」 「…でも、ん…俺まだ…何もっ、ん…っ、できてませ…んふっ」 言葉を紡ぐアオキの唇を邪魔をするように啄ばむと、嗜めるように口内を掻き回す。 わざと水音を立てて唇を吸ってやると、アオキの華奢な背中がふるふると震えた。 「お前が俺の事を思って、色々心配してくれるのは嬉しい。マンネリを危惧する気持ちもわかる。けれど俺たちはこうなる前に随分我慢しただろう?まだたった数ヶ月だ。そんな短い期間一緒にいただけで満たされるわけないじゃないか」 紅鳶の訴えに上気した目元がうるうると潤んでいく。 「それともお前はもう俺に飽きているのか?」 問いかけるとアオキはふるふると首を横に振り紅鳶の首にしがみついてきた。 「そんな事絶対にありません…俺、紅鳶様以外と…なんてもう考えたくもないですっ」 いじらしいアオキの言葉と行動に笑みがこぼれる。 「俺も一緒だ、アオキ。だからこれを外してくれないか。積極的なのは嬉しいが、セックスは二人で楽しむものだろう?俺もお前に触れたい」 最後の砦を壊すように甘い言葉で諭すと、ついにアオキがコクリと頷いた。 そしてマットの下から手探りで小さな鍵を取り出すと、ようやく手錠が外される。 その手首にはうっすらと跡がついていた。 アオキの顔が再び青くなっていく。 「…ごめんなさい」 項垂れるアオキの髪を梳きながら紅鳶はフッと笑った。 腹筋を使って起き上がり、クルリと体勢を変える。 今度は紅鳶がアオキを見下ろす形になった。 シーツに縫いとめられたアオキの顔は紅鳶の視線にすぐに蕩け、期待の色に染まっていく。 見下ろされるのもなかなか良かったが、やはりこうして腕の中にすっぽりと収めている方が落ち着く。 細い輪郭をなぞりそっと額に口付けた。 「気にするな、跡はすぐに消える…それに今からやられた分しっかりとお返しをするつもりだからな」 「…え…」 紅鳶の言葉にアオキの瞳がわずかに揺らいだ。 この顔だ。 こうやって煽った時の表情もすこぶるかわいい。 「当たり前だろう?それと、二度と余計な事を考えないようしっかりその身体に叩き込んでやる」 明日は立てなくなると思え。 耳元で低く囁いてやると、アオキの喉が上下に動く。 その顔はすっかりいつものアオキに戻っていた。

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