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第9話*かりそめの夫*
「顔を上げろ」
鋭利な刃物を突き付けたような感情のこもっていない冷たい声だった。
作造さんがそっと俺の手を押さえる。
『俺は顔を上げちゃだめなのか』
「お館様、花嫁でございます」
『俺で一体何年持つんだろう・・』
「ご苦労であった下がれ」
はっと気づくと皆が立ち上がっていた。
『ああ、帰るのか。そうだよね、こんなところから早く逃げ出したいよね』
「トキワ、本当にすまない」
小さく作造さんの声がした。
『作造さんずいぶん俺の心配をしてくれた。いままでも優しくて、もしかして作造さん、俺の父親だったのかなあ』
トキワは一人大広間に残された。
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