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第37話*小さな宴*

その日から寝所で小さな会話が始まった。 夕餉で苦手なものを無理矢理食べたこと、打掛につまづきそうになったこと、そのような事でも毎夜狐は嬉しそうに聞いていた。 『こんな事でいいのかなあ?』 『すみれ色の宝石に・・』  シマの言葉がよみがえる。 『でも何か痛いことあったら嫌だし、でもいままでずっと約束守ってくれているし』  今宵もたわいのない宴が行われていた。 満足そうな顔でトキワを見つめ、酒をすすめる狐。 「お館様はお酒をいつもおいしそうに召し上がっていますが、酒とはおいしいものなのですか?」  いきなりのトキワの質問に狐はきょとんとした。トキワの方というと人の子としてのひどく単純な疑問だった。 「口を付けてみるか?」 「え?」  差し出された盃を手に取り口に含む。 「に、苦い」 「あははは。そうか苦いか」  トキワから盃を取り、 「お前にはまだ少し早いだろうな。いま、果実水を用意させよう」  すぐにやってきた果実水を飲み、 「甘い」  トキワのホッとした顔を見て狐は、 「無理をするなトキワ。俺はありのままのお前が良い」 「はい」

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