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第40話*ぬくもり*

『いきなりそんなこと言われても、どうしよう』  トキワは静かに前に進み、狐の前に来た。 「あの、目を閉じていただいてもいいですか?」  狐は言われた通りに目を閉じる。そっとトキワの手が伸びる。狐の首に腕を回し、 腰を狐の胡坐の中におさめた。すっとトキワが離れる。 「目を開けていただいて大丈夫です」  狐は両手で顔を覆っていた。 「お館様?」 「地獄だ」 「え?」 「こんなにトキワのぬくもりを感じながら触れられないとは。言わなかった方がよかったのかもしれん」  トキワは少し考えて、 「肩だけ。肩だけにしてください」 「ん、トキワ何を?」  するとトキワは先程のように狐の懐に入った。狐は言われた通り、 肩に手を置きトキワを抱きしめた。 『く、苦しい』 「トキワ。俺はいまお前に触れている。どれだけこの日を待ちわびただろう。 お前のぬくもりで羽が生えたようだ。なんて素晴らしい日なのだろう」 「お、大げさですよ、お館様」『・・・』 「本日も寝相の悪い見張りはご所望でしょうか?」 狐はうつむいたまま無言だった。 『か、肩の骨折れる!く、苦しいー』

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