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第59話*忘れられた恐怖*

そのまま狐は手を休めずすみれの体を拭いていた。 「あ、あの、お館様」 「まだ体がいう事をきかないだろう、おとなしくしておけ」 「でも・・」  狐は背中、腰、足のほうまで進めて行った。 「あのっ」  狐が太ももに手を伸ばす。 「あ、いや」  左足のつけねに小さく傷があった。 「すみれ。これはあの時の傷か」  歯形はないが、犬歯は深かったので薄く傷が残っていた。 「はい・・」  見られたくなかったと言う感じで 小さく答える。 「すみれ。すまなかった、悪ふざけが過ぎた。人の子があんなにもろいとは思わなかったのだ。ずいぶんと恐ろしい目に合わせた」 「そんな、もう大丈夫です」 「あのあと随分シマにしぼられた」 「ふふ。さすがシマさん」 「ひゃあ」  太ももの傷を大事に舐めると 「すみれ。俺はお前がそばにいないと生きている意味がない」

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