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第63話*愛の意味*
「失礼いたします」
『あ、今日も人の形だ』
「うむ」
『今日もご機嫌がよくないのかな』
狐はほとんど話さず酒を口にしていた。
『今日も俺のすることはないかな』
すみれは静かに席を立ち、
「お先に失礼します」
と布団に入った。しばらくして狐も布団に入ってきた。
『あれ、いつもよりおやすみが早いなあ』
しばしの沈黙の後、狐が口を開く。
「すみれ」
「はい」
「お前と口吸いがしたい」
「えっ」
『口吸いってもしかして、この前みたいにだるくなるやつの事?』
『ど、どうしよう。普段の感じじゃないよね。もしかして人の形で
ずっと無口だったのって、それを考えていたの?』
狐がすみれに覆いかぶさる。
『近いっ』
「すみれ、俺はお前を愛している。たとえお前が俺のことを愛していなくても。
生涯ともにいて、お前を守り、生きていきたい」
少し悲しげな顔で狐がすみれに言う。
「すみません、お館様。俺は愛するという言葉の意味がわかりません」
狐の顔が曇る。
「でも・・」
すみれは狐の手を掴み
腰ひもの位置に持って行った。
「すみれ?」
そして狐の首に腕を回す。
「でも俺はお館様のものです」
すみれの舌は強く狐の舌に捕らわれていた。
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