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第84話*たびだち*

「ちわー。お邪魔するぜい」  何か最近頻繁に灰羽さん来るなあ。あれ、今日は上がっていかないの? 「ではシマすみれを頼むぞ」 「はいお館様もお気をつけて」 「天我?」 「ああ、すみれ。急に灰羽と出ることになった。一日二日で着くようなところではないので、 少し時間は空くが心配せず待っていてほしい」 「どれくらいでお戻りに?」  天我は少し困った顔にも見えたが、 「淋しがり屋の花嫁殿が泣き出す前には帰ってこなければな」  すみれの頬を優しくなでて流れる黒髪に指を通す。 「ところで花嫁殿。しばし屋敷を空ける夫に向ける言葉はないのかな」 「えっ」  お見送りの言葉を言えばいいんだよね?でもシマさんがもう言っていたし、 俺はきっと天我がうれしくなるようなことを 言わなきゃいけないんだよね。えっと・・。すみれはまっ赤になって天我の着物をぐっと掴んだ。 「おおっ」  天我が前のめりになる。 するとすみれは手で天我の耳を隠し、 「あ・あいしています天我。早く帰ってきて」  着物を握った手を緩めるとすみれは恥ずかしくて涙目だった。 「ふ。俺も同じだすみれ。早く戻る待っていろ」  愛おしそうに頭をなでる。 「ちょっとー。そこのいちゃいちゃご夫婦ー。いつ出発するの」  灰羽が待ちくたびれて悪態をつく。 「ではな。すみれ」 「はい天我」 二人が飛び立った空をいつまでも見上げるすみれ。 そして、もう、三ヶ月見上げている。

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