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第91話*抱擁*①
それから三日すみれは寝所に現れない。その間天我は回復して起きられるまでになっていた。
「あれでは量が足りなかったというのに」
天我が歯を食いしばる。
「まーそうだねえ。思ったより小さかったねえー」
灰羽もつぶやく。
「それにアイツらきっと棲み処変えたからもう見つからないよ」
「くそっ」
天我が膝を叩く。
「すみれはどこだ!」
「知らんよー。そんなの」
気の抜けた灰羽を残し、天我は寝所を出て、天我はどかどかと廊下を歩く。
「む、すみ・・」
すみれは長椅子のある大きな窓から外を眺めていた。
「すみれ・・」
ささやくように天我はすみれに声をかける。
「天我、起きられるようになったの?」
すみれが天我にそっと寄り添う。
「すみれ、すまない。お前の気持ちを確かめず、勝手な行動をしたためにお前を傷つけた」
そっとすみれを包み込む。
「俺はあんな天我を見ていたくなかっただけ」
「すまん。お前のために手に入れたかったものを」
「人魚の肉のこと?天我食べていないよ」
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