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第92話*抱擁*②

「なにっ?」 「シマさんが天狐の傷は治りが早いから煮え湯だけでも十分だって。お肉の方は調理してもらって俺が食べたよ」 「おお、そうか。すみれが食したか」  そういって天我はすみれを抱きしめる。 「でもシマさんが量が少ないって言ってた」 「そうか。やはりそうか・・」  天我は力なくすみれの顔を見る。 「ねえ、シマさんが言っていたんだけど天狐って二千年くらい生きるんでしょう?」 「あ、ああ」 「それなら天我はもう千五百歳くらいで、不老不死じゃない俺も五百年くらい生きることができたら、ちょうどよくない?」  にっこりとすみれがうれしそうに話す。 「俺、贄嫁でよかった。天我に会えてよかった。でも、まだまだずっと一緒だけれどね」  天我も微笑んですみれを抱き上げる。 「すみれは相変わらず、俺を喜ばせる事しか言わんなあ」  そういって二人思い出の大きな窓から外を見る。 そして数日、天我の体調も安定してきたので灰羽が帰ることになった。 「灰羽さん。ありがとう。俺のために危険な目に合わせてごめんなさい」 「いやー大丈夫。天我に斬られるよりはよっぽどましさあ。ま、これでここに来るたびデレデレの天我が見れるわけだ」  すみれの後ろの天我から灰羽は殺意を感じる。 「やー花嫁さん。天我は花嫁さんのおかげで色々なことを知ったと思う。これからもかわいがってくれよな」 「はい」 「灰羽、ごちゃごちゃうるさいぞ」 「じゃあ、またな~」  大きな翼を広げ灰羽は屋敷を旋回してから、遠くの山に消えていった。

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