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第2話①
「・・・はぁ。」
一日の授業もおわり、昼間より少し静かになった教室。
開け放した窓から聞こえてくる、陸上部の掛け声をぼーっと聞き流す。
いつもならルンルン気分で帰り支度をするところだが、今日はそんな気分になれそうにない。
「・・・まずいな・・。」
まずい。これはちょっとまずいぞ。
まずいまずいまずい。
A4サイズの紙きれを目の前に大きく項垂れる。
「どーうしたよ、淳。帰ろうぜー」
「…ユウスケくん。君はいつでも元気ダネ。」
頭上からの陽気な声に対し、俺は項垂れた姿勢のまま返事をする。
あ,どうもまたまた山本淳です。只今絶賛病んでいます。
そんな俺にお構いなく今お気楽に話かけてきたのは、嶋谷祐介。
ちょっと騒がしい時もあるが、明るくていい奴だ。
「なになに?落ち込んでるの淳ちゃん?失恋?青春かぁ!?ひひひひっ!」
「…ちげぇよ…。」
否。やっぱり騒がしいだけかも。
うぅーと唸りながら1つ前の席に座り騒ぐ友人に、先程まで穴が開くのではないかと思うほどにらめっこしていた紙を突き出す。
「おっ!俺とお揃いじゃーん。」
「いやそこでお揃いはまずいだろ!」
男同士でお揃いお揃いって何あれ気持ち悪い、とか思わないでね。
お揃いといっても好きなスポーツ選手だとか将来の夢だとかそんなほのぼのするものではない。
「俺と共に追試決定だな!」
「そんなの嫌だ―!!」
期末テストまであと一週間。
だというのに、勉強がはかどらず、数学の小テストの点数は史上最悪な数値。さらにその数字は、追試グループによく仲間入りしている祐介さんとお揃いときた。
「いや~淳君もとうとうこっちの世界に仲間入りか~。」
「いやだいやだ。仲間入りしたくない…。」
祐介からの地獄?の誘いにやめてくれ、と頭を抱え込む。
これは本格的にやばい。
小テストぐらいで、と思われるかもしれないが、自分の能力は結構自覚している方だ。
ダメダメな方向で。
「淳君は俺を裏切らないって信じてたよっ!」
「…ぐうっ…」
焦りに焦っている俺に反し、彼はどこまでも陽気だ。
こいつはどうしてこんなに冷静でいられるんだ。
これが、常習犯の貫禄ってやつか。
祐介といるのは楽しいが、追試まで一緒に受けたくないぞ。
このままじゃ駄目だ。
「…よしっ!…勉強する!!」
「えーすんのかよー。」「何当たり前のことを威張っていってんの。」
意を決して立ち上がり、帰りの準備をしながらそう宣言すると祐介とは別に女性らしい声で最もなツッコミが入る。
「あっ、稜様。」
「おぉー!りょーうちゃぁーんっ!!いてててて」
「抱きついてこようとするな。」
クールにツッコミを入れ、真顔で祐介の頬をつねって登場したこの方は、松河稜。稜様。
何で様付けなのかっていうと…実はさっきの会話では全く分からなかったと思うが,稜様は…女の子だ。しかも俺の判断でいくと学校の1、2を争う程の美人さんなのだが……
「ひどいよー!!稜ちゃ、いてっ!!」
「うるさい」
…とこの様に祐介の頭を鞄で華麗にしばいたりと男前な所がありまして。特に祐介に対して。敬意を込めて稜様と呼ばせて頂いているのです。怖いので。
でもそこがまた素敵だとかいっている方々もいらっしゃるみたいでひそかに校内では「稜様ファンクラブ」があるとかないとか。
祐介も同じく稜様を崇拝している内の一人だが,相手にされていない。
この2人とは高校に入ってからずっと一緒にいる。個性豊かな俺の親友達です。
荷物をまとめ、いつものように3人横に並んで下校する。
「稜様はちなみに…今回の小テストどうだった?」
「満点だけど。」
「デスヨネ。」
「さっすがりょうちゃんっ!」
稜様はそれが何か?という表情でこちらを伺ってくる。
聞くまでもなかった。
稜様は頭がいいんだった。
「今週は頑張らないとな…」
「どんまいっ!淳っ!」
勉強のことを考えて気が重くなっている俺の背中を祐介がばしばしと叩く。
ほんとこいつのメンタルどうなってるの。
「お前はもうちょっと勉強しろ。」
「りょうちゃん厳しいっ!でもそんなところも可愛いっ!」
「気持ち悪い。」
いつも通りの2人のボケツッコミを聞きながら俺の頭の中は、もう数学のテストのことでいっぱいだった。
何とかしなければっ!!
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