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第2話③
半分魂が抜けた状態でドアを開けると、城崎さんがちょうど店の中に入ろうとしている時だった。
「あっ城崎さん…こんにちは…へへへ…」
「おー彼方。」
「…どうも。何この辛気臭い高校生男児。」
笑顔で挨拶をしたつもりだったが、気味悪がられてしまった。
「来週テストなんだってよ。」
「へー…。がんばってね。」
城崎さんは、キラキラスマイルで手をひらひらと振ってくる。
女子ならこの笑顔にイチコロだろうが、俺はその直前にいささかどうでもいいなという顔をしたのを見逃さなかった。
世間の女子よ、騙されるな。
それともそういう所がいいのか?
だがイケメンに限るってやつ?
勝手に恨めしく感じてきて、目の前のイケメンを軽く睨みつけてみる。
「ははっ!何やってんだよ!」
「うぉっ!?」
いつの間にかカズさんが後ろにいて俺の背中をばしっと叩く。背中を叩かれるのは本日2度目だ。
今のは結構いい音なったぞ。
「あっ、そういえば、彼方、お前数学得意じゃなかったっけ?」
「..普通だけど。何が言いたいの。」
嫌な予感、と城崎さんは顔を顰める。
俺もなんだかカズさんの言わんとすることが予想できて冷や冷やしながら先を待つ。
ちなみに普通っていう人は大概勉強ができるよね。
まぁ、みるからに頭良さそうだもんな。
「彼方、淳に勉強教えてやってよ。」
「嫌に決まってるでしょ。」
予想通りの言葉に対し、スパッと即答で断りの返事がくる。
いや、即答ですか。
突然勉強教えろって頼まれたらそりゃぁ、当然嫌でしょうけども表向きは、ちょっと断りにくそうにしたりするもんじゃない?
ちょっとずつこの人の本性が見えてきた気がする。
「あのカズさん、それは申し訳ないのでいいですよっ。」
そうとはいえ、やはり急に頼むのは無理があるので俺もカズさんを止める。
しかしカズさんは名案だろ?といったようにニコニコしている。
「彼方、暇だろ?大学生なんて1番暇な時期なんだし。お前もちょっとはアクティブにいろんなこと経験しろ。」
「嫌だってば。経験ならこの店でしてるでしょ。」
「これは、身内の手伝いみたいなもんでしょうが。」
頑なに断る城崎さんに全く動じず、カズさんはぐいぐいと責めていく。
「残念だなぁ。彼方が淳のこと助けてくれたら"アレ"をあげようと思ってたんだけどなぁ。」
「…アレ?」
カズさんは意味深な笑みを浮かべながら城崎さんに耳打ちする。
「…!!」
ここからは何を話しているのか聞こえないが、城崎さんの表情が変わった。
カズさん、何いったんだ…?
とにもかくにもたかが高校生1人のために無理強いはよくない。
「カズさんっ、「分かった。」」
本当に大丈夫です、といおうとしたら、さっきまでの嫌がりようが嘘だったかのようにあっさりとした返事が城崎さんから返ってきた。
「え?」
..いいの?
あまりにも態度が一変したものだから間抜けな顔で城崎さんを見つめてしまった。
「そのかわり…俺が教えるんだから絶対平均点以上とらないと許さないからね?」ニコニコ
「ひっ…ハイ…努力シマス…」
漫画ならゴゴゴ、と音がしそうな笑顔でなかなか恐ろしい発言をされる。
笑ってるのにゴゴゴって、効果音おかしいでしょ。
「おー。任せたぞー。」
黒々とした笑顔を浮かべる城崎さんとビクビクと怯える俺を前にしてもカズさんは変わらず明るい笑顔を崩さない。
なんと対照的な笑顔だろう。
ある意味1番強いのはカズさんかもしれない。
というわけで。
カズさんの気配りで(良かったのか悪かったのか)、城崎さんが特別に家庭教師をしてくれることになりました。
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